浮世絵は、絵師が描いた下絵をもとに、彫師が版木に図柄を彫り、摺師が版木をもとに色付けして完成する分業から生まれますが、現存する江戸時代の浮世絵の価値を大きく左右するのは、実は“摺りの状態”の良し悪しです。
とくに絵師の創意や彫師・摺師の技量を存分に今に伝えるのが、いわゆる「初摺(しょずり)」の浮世絵です。
初摺のあとで何度か出される「後摺(あとずり)」では、線がぼやけ、摺色も減らされます。ことに評判が高い絵は、後摺が数多く出されました。したがって現存する初摺のものはきわめて少なく、たいへん貴重です。
また、シリーズで何点も連作が出される名所絵などは、シリーズ全作品が揃っていることも重要です。高名な絵師の評判のシリーズ全作品が初摺で揃っている、そして保存状態がいいものであればあるほど、価値が高くなります。
そんな「初摺」の浮世絵を堪能できるまたとない展覧会が、新潟市美術館で開かれています。あの歌川広重の傑作《名所江戸百景》《六十余州名所図会》のシリーズが、全作初摺で公開されているのです。その名も「広重ビビッド」展です。(~後期2017年5月21日まで)
本展は、実業家・原安三郎氏が蒐集したコレクションのうち、広重の《名所江戸百景》《六十余州名所図会》が初めて全点公開される画期的な展覧会です。しかもすべて初摺です。
そのほか、国芳による《東都》《東都名所》のシリーズや《忠臣蔵十一段目夜討之図》、そして現存数がきわめて少ない葛飾北斎の《千絵(ちえ)の海》シリーズ全10点など、江戸後期を彩った絵師たちの作品も紹介します。
本展の見どころを、新潟市美術館の学芸員さんにうかがいました。
「本展で紹介される広重の二つの連作、《名所江戸百景》全120図、《六十余州名所図会》全70図は、すべて初摺であるのはもちろんですが、ほとんど退色が見られず、みごとな保存状態を誇る極上のコレクションです。
藍・群青など、つい昨日摺られたばかりのような濃密でビビッドな色彩を見せています。これがほんとうに江戸時代の浮世絵か、とどなたも驚かれることでしょう。
また、北斎が日本各地の水辺の風景を描いた連作《千絵の海》は、智慧の深さを海にたとえる「智慧の海」の言葉遊びになっています。この連作全10点を揃えている所蔵先はほどんどありませんので、今回は全点をみられる貴重な機会です。
本展では、作品保護のため、ほぼすべての作品を前期・後期で展示替えしますので、リピーター割引をご利用のうえ、ぜひ全作品をご覧ください」
広重の迫力ある構図と、初刷の濃密な色彩を味わえるまたとないチャンスです。ぜひお出かけください。
【原安三郎コレクション 広重ビビッド 広重・北斎・国芳、至高の初摺】
■会期:前期2017年3月18日(土)~4月16日(日) 後期4月18日(火)~5月21日(日)
■会場:新潟市美術館
■住所:新潟市中央区西大畑町5191-9
■電話番号:025・223・1622
■WEBサイト:http://www.ncam.jp
■開館時間:9時30分から18時(観覧券の発券は17時30分まで)
■休館日:月曜日(ただし3月20日、5月1日は開館)、3月21日(火)
■入場料:一般1000(800)円 大高生800(600)円 ( )内は20名以上の団体料金、中学生以下無料、障がい■手帳・療育手帳所持者と介護者1名は無料、リピーター割引:本展の半券提示で2回目以降の観覧は団体料金に割引
■アクセス:新潟駅前万代口バスターミナルより「B1萬代橋ライン(BRT)」で「古町」下車徒歩約12分
取材・文/池田充枝