文/堀口茉純(お江戸ル/歴史作家)
新選組は若い世代が歴史にハマる入口の一つだ。最近では2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』が記憶に新しい。ドラマが終了して以降もその人気は衰えず、新選組を扱う漫画やゲームなども増え続けている。
だが、それにくらべて「新徴組」(しんちょうぐみ)の存在はあまり知られていない。
文久3年、徳川家茂上洛の警護の為に集められた浪士組から分派して京都の治安警察になったのが新選組で、江戸の治安警察になったのが新徴組だ。新選組と新徴組はいわば兄弟のような関係にあるのだが、新選組にくらべて新徴組の知名度は抜群に低い。
確かに池田屋事件のようなハイライトもなければ土方歳三のようなイケメンがいるわけでもないので時代劇の素材としては地味なのかもしれないが……。ただ知れば知る程面白く味わい深い、スルメの様な存在が新徴組なのである。
まず幕末の江戸が相当面白い。政局の中心が天皇のいる京都に移り、各地方の海防強化のために参勤交代も廃止されたため、それまで日本の中心として機能していた江戸が一時的に政治的空白地帯になった。そこに討幕をもくろむ攘夷志士や天誅の名の下にテロを目論む危険人物、更に黒船にのってやってきた外国人といった、それまでの町奉行の警察権の圏外の人間が続々と流入してくる。そこへ大地震、大風災、疫病の流行と言った天災までもが波状攻撃的に襲い掛かかったのだ。。
一言でまとめると幕末の江戸はとんでもないカオスだった。その取り締まりにあたったのが新徴組なのである。
新徴組は新選組同様に剣術の達人クラスで構成されており、彼らが江戸市中を巡回することで乱れきった江戸の治安はなんとか保たれていた。その仕事ぶりは
酒井(新徴組を預かった庄内藩酒井家の事)なければお江戸は立たぬ お巡りさんには泣く子も黙る
と謳われて讃えられる程。ちなみにこれがお巡りさんの語源と考えられている。
新徴組は大政奉還の後も戊辰戦争において重要な局面に絡み実戦において無敵の強さを誇るのだが、明治以降は一般的にはほぼその存在を忘れ去られてきたというのが現状だ。
2017年1月14日放送のドラマ『花嵐の剣士~幕末を生きた女剣士・中澤琴~』(NHK BSプレミアム)は、これまで時代劇にメインで取り上げられることが殆どなかった新徴組を中心に物語が展開する意欲作。時代劇がきっかけで歴史に埋もれてきた存在にスポットライトが当たるのは素晴らしいことである。
【勝手におうえんリンク】
BSプレミアム『中澤琴事前特番 もう一つの新選組~“新徴組”と幕末の江戸~』
【放送予定】1月12日(木) 午後9時~ 再放送14日(土)夜5時30~(NHK BSプレミアム )
http://www.nhk.or.jp/bs/bsguide/bsp.html
私ほーりーも出演!伝説の女剣士・中澤琴の実在性に迫り、新徴組の魅力を掘り下げる特別番組です。
BSスーパープレミアム 『花嵐の剣士 ~幕末を生きた女剣士・中澤琴~』
【放送予定】2017年1月14日(土)よる9時から10時29分(NHK BSプレミアム )
http://www4.nhk.or.jp/P4031/
文/堀口茉純(ほーりー)
東京都足立区生まれ。明治大学在学中に文学座付属演劇研究所で演技の勉強を始め、卒業後、女優として舞台やテレビドラマに多数出演。一方、2008年に江戸文化歴史検定一級を最年少で取得すると、「江戸に詳しすぎるタレント=お江戸ル」として注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。著書に『TOKUGAWA15』(草思社)、『UKIYOE17』(中経出版)、『EDO-100』(小学館)、『新選組グラフィティ1834‐1868』(実業之日本社)がある。
『江戸はスゴイ』世界一幸せな人びとの浮世ぐらし
(堀口茉純・著、PHP新書)