ことばは不思議で、同じ言語であっても、地域や文化、世代によって、ニュアンスや使われ方は少しずつ変わっていきます。まして異なる言語のあいだでは、そのまま訳しきれない表現もたくさんあります。
日本語の「おつかれさま」も、そのひとつかもしれません。仕事の終わりに誰かをねぎらうとき。一日をともに過ごした相手に声をかけるとき。また、感謝や励ましを伝えたいとき。さまざまな場面で使える、日本語らしい表現です。
今回は、この「おつかれさま」を、英語ではどのように伝えることができるのか、考えてみましょう。

「おつかれさま」って、英語でなんて言う?
日本語の「おつかれさま」に、ぴったり重なる英語はなかなかありません。英語では、場面や相手との関係に合わせて、いくつかの表現に分けて伝えることになります。ここでは、実際によく耳にする表現をご紹介しましょう。
1. 仕事の終わりに軽く声をかけるとき
“Good job today.”
(今日はよくがんばりましたね。)
“Thanks for your hard work today.”
(今日はおつかれさまでした。/がんばってくれてありがとう。)
“Thanks for your support today.”
(今日はサポートしてくれてありがとう。)
2. 友達同士のカジュアルな雰囲気で
“Long day, huh? Get some rest.”
(長い一日だったね。ゆっくり休んでね。)
“You did great today.”
(今日、すごくよかったよ。)
3. 相手を少していねいにねぎらいたいとき
“You must be tired. Thanks for your hard work today.”
(疲れたでしょう。今日は本当におつかれさまでした。)
“I appreciate your help today.”
(今日は手伝ってくれてありがとう。)
“You’ve had a long day. Get some rest.”
(長い一日でしたね。ゆっくり休んでください。)
また、こうした言葉のあとに、
“See you tomorrow. ”
(また明日。)
“Have a good evening.”
(よい夜を。)
“Take care! ”
(気をつけてね。/またね。)
などを添えると、自然な別れのあいさつになります。英語には、「おつかれさま」のように一語であらわす表現はありませんが、その代わりに、「がんばったね」「助かりました」「ゆっくり休んでね」など、相手に伝えたい気持ちを少し具体的に言葉にしていきます。
地域で変わる、ねぎらいの英語
以上のような標準的な英語表現もありますが、同じ英語であっても、地域や文化によって、よく使われる言い方や、ことばのニュアンスは少しずつ違います。
アメリカ英語
標準的な表現に加えて、別れ際に、
“Have a good one!”
(よい時間を過ごしてね。)
のように言うことがあります。
“Have a good one!” は、“Have a good day ” / “evening” / “weekend” などをまとめたような表現で、特に北米で耳にするカジュアルな別れのあいさつです。
イギリス英語
カジュアルな感謝や別れ際の言葉として“Cheers” が使われます。もともとは乾杯の言葉ですが、日常会話では「ありがとう」や「じゃあね」に近い感じで使われます。

たとえば、関係が近い相手なら、
“Cheers, see you tomorrow.”
(ありがとう、また明日ね。)
“Good work today. Cheers.”
(今日はよくがんばったね。またね。)
ただし、“Cheers” は少しくだけた響きがあるので、あらたまった場面では “Thank you.”や “Have a good evening. ”などのほうが安心です。
オーストラリア英語
全体にフレンドリーな印象のある表現が多いように感じます。その中でも “Good on ya.” は、主にオーストラリア英語でよく聞かれるカジュアルな言い方です。これは “Good on you.” がくだけた形で、
よくやったね。えらいね。
という意味になります。
たとえば、
“You finished the project? Good on ya!”
(プロジェクトを終えたの? よくやったね!)
ガーナで使われる英語
公用語が英語であるガーナ出身の友人にも、このことについて聞いてみました。ガーナは、日常生活では多くの地域言語も使われる、多言語の社会です。職場などでは英語をベースに話すことも多い一方で、言葉のかけ方には、人間味のあるあたたかさが感じられるといいます。
たとえば、仕事のあとには、
“Well done.”
(よくやりましたね。)/(おつかれさま。)
“Safe journey home.”
(気をつけて帰ってね。)
のような、言い方をすることが多いそうです。
日本語を話すその友人は、「おつかれさま」にぴったり対応する英語はないけれど、ガーナの現地語には、誰かが懸命に努力し、それをやり遂げたことを、より深く伝えるような表現があると話してくれました。
また、“Safe journey home.” のような言い方にも、単なる「気をつけて帰ってね」以上に、「あなたが無事に家に帰れますように」という祈りや祝福に近い感覚が含まれることがあるそうです。
同じ英語であっても、相手をねぎらい、感謝し、無事を願う気持ちは、地域によって少しずつ違います。英語という言葉の奥にある、さまざまな文化の表情が見えてくるようで、とても興味深く感じます。

最後に
デレク・ウォルコットは、セントルシア生まれの詩人・劇作家です。カリブ海という土地の歴史や、植民地の記憶、さまざまな文化が重なり合う感覚を、深く作品に織り込んだことで知られています。詩人・劇作家として国際的に高く評価され、1992年にはノーベル文学賞を受賞しました。
以下は、彼の詩 “Love After Love” の冒頭部分です。
The time will come
when, with elation
you will greet yourself arriving
at your own door, in your own mirror
and each will smile at the other’s welcome,
…
— Derek Walcott, Love After Loveその時は来る
よろこびに満ちて
帰ってきた自分自身を迎え入れる時が
家の扉で、鏡の中で
互いを迎えられるよろこびに、ほほえみ合うだろう。(池上カノ訳)
出典: Derek Walcott, The Poetry of Derek Walcott 1948–2013 (English ed., London: Faber & Faber, 2014).
この詩は、一度は見知らぬ人になってしまった「自分という見知らぬ人」を、もう一度愛すことを描いています。帰ってきた自分との出会いを祝福します。
そして詩は最後に、
“Sit. Feast on your life.”
(座って。あなたの人生を味わいなさい。)
という印象的な一行で結ばれます。
これが私の人生だと受けとめ、そのままを味わう。足りないものを数えたり、自分を裁いたりするのではなく、ここまで生きてきた自分に、席を用意し、祝福する。
「おつかれさま」と言い合える相手がいるのは、うれしいことですね。でもときには、自分自身にも“Good job!” と声をかけ、がんばってきた自分を、まずは自分自身がねぎらってあげることに、小さなよろこびがあるように思います。
●執筆/池上カノ

日々の暮らしやアートなどをトピックとして取り上げ、 対話やコンテンツに重点をおく英語学習を提案。『英語教室』主宰。 その他、他言語を通して、それぞれが自分と出会っていく楽しさや喜びを体感できるワークショップやイベントを多数企画。
→The English Schoolホームページ
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











