
天下人となった織田信長を織田家中の出世頭だった明智光秀が討ち果たすという「本能寺の変」は、日本の歴史上最大級の事件として伝えられています。大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、織田信長を小栗旬さん、明智光秀を要潤さんが演じています。
「本能寺の変」が描かれる作品は数多いのですが、『豊臣兄弟!』の信長と光秀の関係は、従来にない展開を見せてくれています。象徴的なのが、第13回で元号を元亀に変えたいという将軍義昭(演・尾上右近)の意向を信長に告げた際のふたりのやりとりです。
室町幕府が成立して以降、元号の改元は、朝廷と足利将軍が協議して行なわれるのが慣例でした。慣例=当時の知識人にとっては「常識」のようなものです。ところが信長にはそのような常識が通用しない。信長からしてみれば「なぜ自分に相談しない」となるわけです。お互い「新たな政権」を立てて共に治国していこうということだったのでしょうが「同床異夢」だったことになります。
将軍に就任した際に、信長に副将軍の位を与えたいといって拒まれたこと、足利の二つ匹紋の使用を許すという申し出も拒まれた義昭に仕える能吏の光秀には、信長の言動は理解しがたいものだったと思われます。
そんな折に、要潤さんの取材会が開かれました。要さんにとって、光秀はどんな武将なのでしょうか。
僕も正直、分からなくて、すごく迷いながら演じているんです。自分の中では全然答えが出ぬまま信長の前にいます。他の織田軍の皆さんは、とにかく信長の言うことに対して、「従います! おお!」みたいな感じなんですが、みんなで「おおー!」というシーンでも、僕はあまり声をあげていないんです。本当に気合を入れるつもりはあるのかな? と思うぐらいに。すごくひどいことをされた後に、「出陣じゃ!」と言われて、元気に「おおー!」なんて言っていたら、すごく変な人に見えるので、僕は「おー」くらいにしています。例えると、決まった音程に絶対にはまらない音符をのせるような、すごく曖昧なところを奏でるようにしたいと思っています。
要さんはさらに、光秀役を演じていて難しいと感じる箇所について語ってくれました。
細かい表情や演技プランに関しては、僕からも制作陣に相談しています。この時点で光秀はどれぐらいまで信長に対して怒っているのか、怒りのバロメーターが1なのか20なのか、それ以上なのか、という確認は慎重にしていますね。大河ドラマは飛び飛びで撮影することがあるので、そこは違和感がないように。「あれ? ここまできているのに、このシーンでは意外に怒っていない」と視聴者の皆さんに思われないように、なるべく右肩上がりに怒りが上がっていくようにしています。皆さんから「ああ、そろそろ来るね」という風に見て楽しんでもらいたいです。
光秀は公方様をどこか自分の胸の内に抱えながら生きています。ここは本筋として持っておきながら、キャラクターに落とし込んでいこうと思っています。
延暦寺焼き討ちの場面
第16回の延暦寺の焼き討ちシーンは、衝撃的です。
そのシーンは、自分が崩れそうになるのを必死で支えている、という感覚で演じました。自分を捨てて、女子供まで殺してしまうという感情に振ることはできるのですが、それは本心ではない。今も世界各地で戦争などが起きているわけですけど、兵隊のひとりひとりはおそらく、上に言われたから戦地に来ている。でも本当はやりたくない。そういう気持ちを絶対に捨てずにやろうと思っていました。あのシーンでは、藤吉郎(演・池松壮亮)がいるから自分を保てた、自分の本当の気持ちを彼には言えました。でも、上様(信長)には言えない。中間管理職みたいな苦しさですかね。決してこれは本心じゃないんだという部分を、第16回で描けたらと思いました。後々、本能寺の変につながるひとつの大きな布石になっているんじゃないでしょうか。
『豊臣兄弟!』は、子供の視聴者も多いことが知られています。
『豊臣兄弟!』は、セリフ回しなども時代劇、時代劇していない部分が多くて、わりと現代劇っぽい感じで作られていると思います。芝居も、いわゆる時代劇調と言われるような、目線を切って、セリフの抑揚をつけず、板に水で喋るようなこともなく、現代劇として見れる。ですから、それこそ小学生の方も見ていて話の内容がしっかりと分かると思います。僕自身というよりは、皆さんのお芝居が素晴らしいんですよ。それこそ、冒頭はくすっと笑えるシーンから始まることが多いですし、戦国時代ってこんな綺麗な着物を着ていたんだなとか、こんな大きな城に何人も住んでいたんだなとか、そういう部分は社会の勉強がてら学べる部分があります。教科書で習う史実通りに話が進むかどうかは分かりませんが、それでも、豊臣秀吉や織田信長、明智光秀といった教科書に出てくる有名な歴史的人物が登場するので、こういう人なんだと、見ながら学べるので良いと思います。
要さんが参考にした、過去の大河ドラマでの明智光秀はいたのでしょうか。
『麒麟がくる』はもともと放送時に見ていたので、「あ、『麒麟がくる』でこんなシーンがあったな、あんなシーンがあったな、長谷川博己さんはこんな感じでやっていたな」と思い出したりはしていました。『麒麟がくる』では明智光秀が主役だったので、ヒーロー的な扱いになっていたと思うんですが、あまり意識せずにやっています。それよりも、坂本城があった場所や比叡山を見て、距離感みたいなものを現地で感じてきました。どういうふうに明智光秀が動いていたのか、織田信長や公方様とどのような環境にいたのかなど、滋賀県のあの辺りの風景も当時をイメージしながら演じています。あとは資史料を見たほか、直筆の書状を見せてもらいました。誰宛てに書いたのか、どういう内容なのかをお伺いして、たくさんのヒントをいただきました。あまり強い文章ではないそうで、どちらかというと、お伺いを立てるような文章らしいです。例えば「この城を攻めるのですが、危ないので逃げてはどうですか」とか「こちらの味方につけば怪我はしませんよ」といった内容の書状のようです。戦国時代は敵に対して直接的な警告をするイメージがありますが、明智光秀の書状の文脈を見ると、そういう感じの人ではなかったんです。それはすごくヒントになりましたね。
『豊臣兄弟!』の明智光秀、そして足利義昭と光秀の関係は、大河ドラマ史上もっとも濃厚な、史実に近い関係だといわれています。これまで幾度も大河ドラマで描かれた「本能寺の変」。本作ではこれまでに「見たことのない本能寺」になるのではないかと期待されています。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











