「いつか、自分の経験をまとめた本を執筆して出版してみたい」――人生でさまざまな経験をしてきたサライ世代の人たちが一度は思うことかもしれません。しかし、実際に自著を出版できるのは、ほんの一握りの人に過ぎません。では、どんな人が作家になれるのでしょうか?

『ユダヤ人大富豪の教え』(大和書房)などのベストセラーで知られる本田 健さんと、94歳の今でも作家として編集者として第一線で活躍する櫻井秀勲さんによる共著『作家という生き方』(きずな出版)には、作家という夢を叶えるためにすべきこと、作家に必要な資質、読者の心をつかむ技術などにについてまとめられています。

今回は、『作家という生き方』(きずな出版)の中から、「作家になれる人と、なれない人との違いとは?」について取り上げます。

作家には使命感があって遠慮がない

本田:作家になれる人、なれない人について、櫻井先生にお話をうかがいます。
作家になる人というのは、自分の中に熱い思いがあって、どうしてもこれを世の中に伝えなければいけない、という使命感にも似たようなものを持っている感じがします。それが正しいかどうかはともかく、とにかくこれを伝えなくちゃいけないんだ、という狂気にも近いような熱い思いを持っている人。それを遠慮なく出してしまえるのが作家の特徴だと私は考えます。

櫻井:そう、作家には遠慮がありません。少なくとも、「書くこと」「書くとき」に遠慮していたら何も書けません。本田さんがいわれる通り、書きたいことがあって、それを書く使命が自分にはあると思うから、文章を書く。それが作家だし、作家は、そうあるべきだと思うのですが、いまの作家というのは、そうなっている人は少ないと感じています。

本田:それについて私が思うのは、話し上手な人、社交上手な人、あるいは仕事をバリバリやっている人は、エネルギーがそちらに漏れてしまいます。作家は、そういった回路をすべて断ち切って、文章一本に絞って、エネルギーをぶつけていく、爆発させます。そういうちょっと世間的には不器用で、変わった人が作家として成功できるのではないでしょうか。

櫻井:その通りですね。そこまでエネルギーをぶつけていけないから、たとえ一時は一冊二冊の本は出せても、そのあとが続かない、ということはあると思います。

本田:自分のことを振り返ってみると、私は本流の作家という生き方からは大きく外れたタイプだと、自分のことを分析して思います。自己表現の回路として、文章だけではなくセミナーとか、YouTubeとか他に表現する方法を持っているからです。けれども、狂気のような熱い思いというのは持っているという点では、他の作家の人たちと似ているかもしれません。世界中の人が、お金と幸せにつき合えたらいいのに、と心から思うからです。
文芸の作家とビジネス作家によっても変わりますが、いずれにしても自分の思っているメッセージ性、世界観というのはその作家の特徴だと思います。

櫻井:それがなければ作家になりきることはできないでしょうね。
ただ、最近の作家のほとんどが、本気で有名作家、大作家になろうと思っていないところが残念だと思っているんです。
「作家」という言葉が昔と違ってきたために、作家そのものの仕事が余技になってきている。どちらかというと、「作家」というネーミングが欲しいだけの人が多いように思います。私はそれが残念でなりません。たとえばビジネス書でも人生論でも、自分がやってきたこと、思っていることを、作家のテクニックを使って、人に読んでいただくかたちにする。「人に読んでほしい」という思いがそこにあるわけです。

本田:はい。たとえば、テーマを選ぶときも、家族愛について、あるいは人生の虚しさについて、愛の儚さについて、作品を通して、作家はメッセージを発信します。すべての作品を通して、お金の大切さ、時間の大切さ、人間関係の大切さ、健康の大切さなどを伝えたいのです。

櫻井:ところが最近は、そういう思いよりも、自分はこんなふうに成功した、うまくいったということを広めたい「宣伝マン」になっている人が圧倒的に多くなっているように感じます。

本田:その本がどのジャンルかによっても違うと思いますが、ちなみに、ポジティブなことを伝えたい人は、ビジネス書、実用書の著者に向いているでしょう。悲しみ、葛藤、苦しみなど、ネガティブなことを伝えたい人は、文芸に向いているのかもしれません。

櫻井:それは鋭い分析ですね。その通りだと思います。

長く作家を続けている人はメンタルヘルス術を身につけている

本田:ありがとうございます。いずれにしても、そういう感じで、自分の伝えたい世界、それを形にしていくのが作家です。
ただバラ色のことだけを描いていて、人が喜ぶわけではありません。どちらかというと、醜悪なもの、見たくないもの、嫉妬、憎しみ、あるいは誰かに対する激しい怒り、社会に対する絶望感、そういったものを表現することが作家として大切な仕事になってきます。

櫻井:それを書ける作家が少なくなった、いなくなったと感じています。
文芸性が衰えてきてしまっているために、自分が経験したこと、誰かが経験したことしか書けないということが起きています。もちろん、そのことが悪いわけではありません。ただ小説家のレベルでいうならばまだ初級の段階で、それでは、その上の作品にはならないでしょう。
それはともかく、私がいいたいのは、小説家を目指すならば、絶望感、人間の限界というようなものも書く人が出てほしいということなんです。
ネガティブなことを伝えたい人は文芸に向いていると本田さんがいわれましたが、それを書ける人が文芸の世界でも減っています。
時代が変わって、そういうものは必要とされていないのかというと、そうではないと私は思っています。これからの時代、絶望感に打ちひしがれるようなことが多くなっていくでしょう。それに苦しむ人たちに向けたメッセージが必要なのです。

本田:多くの人が、そういった感情を感じつつも、なんとかごまかして生活していると思います。作家は、社会の中に流れている絶望感のような空気感を巧みにすくい取って、それを言語化するのが仕事です。そういう社会の中にある絶望感、悲しみ、怒り、フラストレーションなどと24時間向き合わなくてはいけないので、本人や家族はたまったものではありません。よほどメンタルが強い人、ストレスを上手に受け流す技術を身につけた人でなければ、数作で燃え尽きてしまうのは当然です。有名になった作家の中に、メンタルの調子を崩し、自分で命を断ってしまう人がいるのも、それが理由でしょう。
逆に、数十年作家をやっている人は、自分のメンタルを上手に管理する方法を身につけた人です。そうでなければ、3年以上執筆生活をするというのは難しいのではないでしょうか。いってみれば、短距離走を延々、何回も走り続けるようなメンタルタフネスが作家に求められているわけです。誰かが作家になりたいといったら、「やめておいたほうがいいですよ」と冗談交じりに私が答えるのは、そのためです。

櫻井:たしかに。でも、それでも書かずにはいられないのが「作家」なんですね。

*  *  *

 作家という生き方
著/本田健 櫻井秀勲
きずな出版 1,980円(税込)

本田 健(ほんだ・けん)
神戸生まれ。2002年、作家としてデビュー。代表作『ユダヤ人大富豪の教え』『20代にしておきたい17のこと』など、累計発行部数は800万部を突破している。2019年、初の英語での書き下ろしの著作『happy money』を米国、英国、豪州で同時刊行。これまでに32言語50か国以上の国で発売されている。現在は世界を舞台に、英語で講演、執筆活動を行っている。

櫻井秀勲(さくらい・ひでのり)
1931年、東京出身。東京外国語大学を卒業後、光文社に入社、大衆小説誌『面白倶楽部』に配属。当時、芥川賞を受賞したばかりの松本清張、五味康祐に原稿を依頼。二人にとっての初めての担当編集者となる。以後、遠藤周作、川端康成、三島由紀夫など、文学史に名を残す作家と親交を持った。31歳で女性週刊誌『女性自身』の編集長に抜擢され、毎週100万部発行の人気週刊誌に育て上げた。55歳での独立を機に、作家デビュー。82歳できずな出版を起業。94歳の現在、著作は220冊を超える。


 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2025年
8月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店