権力闘争に敗れた意次
I:意次がそこまで悪事をはたらいたとは思えないのですが……。
A:権力闘争の成れの果てというか、不条理極まりない処置でした。意次から政権を「奪った」松平定信らは、前政権である「田沼の時代」を徹底的に「悪い時代」だったと喧伝することに力を注いでいきます。その一環で、城までも徹底的に破却されたのです。自分たちの殿様が、どうやら悪玉にされている。領民の人々にはこの時の「記憶」が強烈にインプットされてしまったようです。やがて幕府が瓦解して、明治新政府が成ったあとも「田沼意次悪玉説」は修正されずに、大正、昭和、平成と時を経て、なかなか復権することができずにいました。もちろん、徐々に復権させようと動いた人もいたようですが、ようやく意次の銅像が建てられたのは令和になってからというわけです。
I:田沼から松平定信への政権交代っていったい何があったのでしょうか。
A:その事態を『べらぼう』がどのように描いてくるのかも注目ポイントのひとつです。「意次の悪政」をでっちあげていく過程が描かれるのか、描かれないのか。再来年の大河ドラマが『逆賊の幕臣』が決まりましたので、大河ファンにとっては、ここは重要なポイントになります。
I:『べらぼう』で描かれる「政権交代」が『逆賊の幕臣』につながっていく流れになるのですよね。
A:田沼意次が醸成した「自由な空気」が転じて、蔦重らの出版活動に規制が入る。そうした潮流が、やがて「妖怪・鳥居耀蔵」の登場でピークを迎えることになります。
I:思い切り逆ブレしていくんですね。
A:今週の意次相良お国入りから逆ブレのピークともいえる「蛮社の獄」まで59年。いったん世の中の空気が逆ブレに転じると、なかなか軌道修正ができないというわけです。
I:いまの世相は、「昭和、平成のモーレツ」をある意味、嘲笑する雰囲気に入っています。現代の潮流が「それが是」ということになっているわけです。この潮流が「やっぱり正しかった」となるのか「ちょっとやりすぎだったのでは」となるのかは、50年後、60年後の人々が判断することになります。いったいどのような判断がくだされることになるのでしょうか。
A:「悪役」のレッテルを貼られた田沼意次の評価も相良の地に銅像が立つまでに回復されています。それでも200年の時を必要としました。200年ですよ。いったんつけられたレッテルの恐ろしさたるや……。今週も登場していますが、佐野政言(演・矢本悠馬)がきな臭い。『べらぼう』で一連の流れをどのように描いてくるのか。要注目です。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
