吉原の祭、江戸の祭り

I:『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』の受け売りですが、このころの江戸は、神田、日枝、深川など、今日に連なる祭りの賑わいは江戸中期に確立されました。富岡八幡宮で行なわれる「深川八幡祭り」は4代将軍家綱の誕生祝いを機に始まっています。山王まつりや神田まつりは神輿が江戸城内に入ることを許された「天下祭り」ですね。
A:そうした祭りに対抗しようってんですから、蔦重ってやっぱり熱い男だったんですね。
吉原の雀踊り

I:喧嘩と踊りで吉原を盛り上げようとする蔦重ですが、そこで、大文字屋(演・伊藤淳史)と若木屋(演・本宮泰風)の対バンっていうんでしょうか、やり合いが面白かったですね。
A:すでに記事にしている媒体もありますが、本宮泰風さんは、『日本統一』など任侠物の作品で著名な俳優です。大河ドラマには『麒麟がくる』(2020年)の第1回で明智光秀の明智庄を襲う盗賊役での出演以来でしょうか。
I:『べらぼう』では長谷川平蔵(演・中村隼人)の子分の町人磯八役で山口祥行さんも登場していました。これも『日本統一』などの任侠物のファンの方にはたまりませんね。
A:願わくば、本宮泰風さんと山口祥行さんの絡みがあればよかったのですが……。さて、雀踊りといえば、劇中の吉原の雀踊りとは異なりますが、現代では仙台の「雀踊り」が有名ですね。毎年5月の青葉まつりで披露されますし、10月に日本橋で行なわれる日本橋京橋まつりにも「仙臺すずめ踊り」として参加していたりします。
I:仙台の雀踊りが登場したところで言及しますが、今回蔦重たちが考えた「祭りで吉原を盛り上げよう」という発想を見て、東北で行なわれている「東北絆まつり(旧東北六魂祭)」が思い起こされました。2011年の東日本大震災のあとに第1回が行なわれた祭りで、青森ねぶた祭、秋田竿燈祭り、盛岡さんさ踊り、山形花笠まつり、仙台七夕まつり、福島わらじまつりという東北地方の有名な祭りが一堂に会するものです。例年6県で持ち回りなのですが、今年はなんと大阪万博に登場するようです。
A:東北六県の祭りが大阪に! 大阪万博、なんだかあまり盛り上がっていないようですが、大阪に東北の祭りが集結する機会などあまりないと思われますので、行ってみたいですね。
I:6月14日、15日だそうですよ。
田沼意次発、自由な空気の賜物
I:さて、蔦重のもとには多くの「才能」が集うようになってきました。
A:鱗形屋(演・片岡愛之助)からは「横取りする」といわれるなど、毀誉褒貶もあるようですが、着々と地歩を固めつつあります。「虫は明かりに寄ってくる」といいますが、やはり当時の世界観のなかでは、「吉原の中の人」でもある蔦重のバリューはやはり際立っていたのでしょう。
I:蔦重の時代……というよりも田沼意次が醸成した「自由闊達な空気」と蔦重のもとに才能が集まる空気がシンクロしたとしか思えません。そして、きっと蔦重という人は「人たらし」でもあったのでしょう。
A:ああ、なるほど。そうかもしれません。来年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』の主人公豊臣秀長の兄秀吉も希代の人たらしだったといわれていますから『人たらしの研究』とかできそうですね。
I:そして、蔦重役の横浜流星さんが主演映画『正体』で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲得しました。田沼から松平定信への政権交代、アカデミー賞俳優の演技。見どころが満載ですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
