町を見渡せば、商店の看板や道路案内、駅の表示などそこかしこに「漢字」があふれている。毛筆のような漢字もあれば、オリジナリティあふれる漢字もある。そんな「漢字看板」を観察しようと町へ出た。案内は、鉄道の駅名標などの文字に詳しい、グラフィックデザイナーの石川祐基さんだ。自ら「もじ鉄」と称し、全国の鉄道駅に表示される文字を収集し分析を行なう。石川さんの目を通すと、漢字看板はどう見えるのか。フォントを使用したものを〈書体〉、施設のシンボルになっているものを〈ロゴ〉、看板屋さんによるものを〈手書き〉と分類し、東京の歴史の新旧が混在する日本橋、浅草、秋葉原、新宿を巡った。
お江戸日本橋のシンボル|じつは徳川慶喜の直筆
1911年に完成した石造の現日本橋。親柱(※橋の四隅にある柱(支え)のこと。)の橋名板は江戸幕府最後の第15代将軍・徳川慶喜の筆による。
日本橋の個性派書店|岡本太郎のデザインが映える
「タロー」は岡本太郎の手書きで、店内に原画が飾られる。書体(隷書)を組み合わせ、店名が読みやすい。
老舗の入口を飾る|日本橋三越本店新館の新旧ロゴマーク
上は1904年に「三越呉服店」と名称が変わった当時のロゴ。下は1986年に誕生した現行のロゴ。
看板が教える現在地|案内標識は漢字と欧文を組み合わせて読みやすく
案内標識は視認性の高いゴシック体が定番で、漢字はやわらかな印象の丸ゴシック、欧文は世界でもっとも使用されるヘルベチカ。
文字もバラエティ|浅草演芸ホールは多種多様な文字で楽しげに
ホール名は手書き、ホール名の下は書体(ゴシック)、「大入」の看板、幟(のぼり)、出演者などの案内板は寄席文字で。
プロの職人が集うかっぱ橋|扱う商品の個性がうかがえる手書き文字のアクリル看板
右は手書きの文字をもとに仕上げた。左は一見、丸ゴシックの書体風だが、看板職人による手書き文字だ。
思わず吸い寄せられる|ロゴ風の手書き看板に誘われる
浅草寺の西側、花やしきのすぐそばにある小体な飲み屋が密集する飲み屋街。心躍るレトロな風情のデザイン。
沿線の人にはおなじみ|鉄道会社のロゴを活かしたマンション名
京成電鉄が1970年代から分譲したマンションの入り口。京成のロゴとそれを模したカタカナの組み合わせ。
青地に白でくっきりと|街区表示版は視認性が第一
仕様に法規はないが、どこの区域でも似通った雰囲気の街区表示板。昨今は専用の書体(東京シティフォント)も誕生。
かっぱ橋で業種をアピール|鉄製のオリジナル文字で力強く
「焼印」は力強いゴシック体、製作所名は丸ゴシックと異なるのは目立たせるためか、破損箇所を修正したためか。
地元密着のクリニック|手書きならではの信頼と安心感
かっぱ橋の医院の案内板。午后の“后”は“後”の俗字。「休診」は目立つよう赤色でペイントされている。
これぞ電気街を象徴|創業71年。ネオン看板の名残を残すアキバのランドマーク
2014年に建て替えられたラジオ会館。かつての看板を彷彿とさせるデザイン。会館名はロゴで前後の文字は書体。
視線を集める漢字Tシャツ|クールな日本文化を演出する筆文字
漢字グッズ、なかでも筆文字の「侍」を主役にした漢字のTシャツは、インバウンドの旅行客に人気。
必要なときすぐ買える|隷書体が支えるハンコ文化
秋葉原で見つけた認印。認印は読みやすさが求められる場面で使うことが多いため、可読性のよい隷書体(れいしょたい)が多い。
爆買いを期待|日中合作の書体が織りなす買取ショップ
フィギュアなどを扱う秋葉原の店。左の「中古買取/販売」は日本の漢字ではなく中国の書体を使用。
外国からの旅行者に人気|江戸文字風のタトゥーシール
江戸文字風の漢字を肌に転写できるタトゥーシールは、手頃な価格で気軽に試すことができる。土産におすすめ。秋葉原のコンビニで販売。
歌舞伎町を代表する巨大看板|漢字と欧文とハートマークが繁華街を彩る
新宿・歌舞伎町で際立つランドマークサイン。丸ゴシックで親しみやすいイメージを表現している。
新宿の「知の巨人」|重厚感漂う立体的な活字ロゴ
1964年に竣工。新宿を代表する書店のビルの壁面には鉛の活字のようにどっしりとした明朝体が象られている。欧文はゴシック。
●案内 石川祐基さん(いしかわ・ゆうき/グラフィックデザイナー・37歳)
鉄道サインと書体の図鑑『日本のもじ鉄』を刊行。町歩き中に珍しい書体があると、立ち止まり見入ってしまう。鉄道員になりたかったが、大学でデザインを学び、広告デザインなどを業務とする「デザイン急行」代表を務める。撮影協力/かっぱ橋装飾
取材・文/宇野正樹 撮影/藤田修平 写真提供/石川祐基
※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。