劇的! 悲恋の末の突然の出家

そんなとき、花山天皇が突然出家してしまいます。その経緯は、次のように考えられています。

花山天皇は、藤原為光(ためみつ)の娘・忯子(しし/よしこ)を見初めて入内してほしいと懇願し、忯子は女御として宮中へ。めでたく懐妊しますが、死去してしまいます。天皇は嘆き悲しみ、出家したいと言い出します。これを好機と捉えたのが、懐仁親王を1日も早く即位させたい兼家。

その画策により、兼家の三男・道兼(みちかね)は天皇に世の無常を説き、「共に出家しましょう」と持ち掛けます。そして、天皇を内裏から密かに、山科の元慶寺へ連れ出し、天皇はここで剃髪しました。

ところが剃髪を見届けた道兼は寺を抜け出し、そのまま戻ってはきませんでした。ついにだまされたことを悟った天皇ですが、後の祭りです。一方、行方不明の天皇を探していた義懐と惟成が、寺で天皇を見つけたときには一連の儀式が済んだあとで、落胆したふたりもそのまま出家。寛和2年(986)6月3日のことで、「寛和の変(かんわのへん)」といわれます。

この事件は、天皇が親王の頃、学問を教えていた紫式部の父・為時の出世にも影響したといわれています。

出家してなお女性に奔放

かくして即位から2年足らずで法皇に。しかし、出家後も女性に対しては奔放でした。

長徳2年(996)、「長徳の変(ちょうとくのへん)」が発生。28歳の法皇は、藤原忯子の妹・四の君を寵愛し、屋敷に通っていました。内大臣である藤原伊周(これちか)は、同じ屋敷の三の君のもとへ。ところが、伊周は法皇が通っているのが三の君のもとだと勘違いし、弟・隆家(たかいえ)に相談。

隆家は法皇一向を待ち伏せして襲撃し、その従者が法皇の衣の袖を矢で射抜いてしまいました。法皇は体裁の悪さから口をつぐんでいましたが噂は広がり、兼家の息子・道長は、政敵の伊周を大宰府へ、隆家を出雲国へ左遷することに成功しました。

懲りない法皇は、中務(なかつかさ)と平平子(たいらのひらこ)という母娘を同時に寵愛。ふたりには皇子も生まれ、世間の人は、中務の子を母腹宮(おやばらのみや)、平子の子を女腹宮(むすめばらのみや)と呼んだとか。どちらの息子も先々代の冷泉上皇のいわゆる養子として、無事、親王宣下を受け、清仁(きよひと)親王、昭登(あきなり)親王となります。

『色絵栄花物語冊子形硯箱』
出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/G甲910?locale=ja

さらに、平安時代後期に成立した歴史物語『栄花物語』には、藤原伊尹の末娘・九の御方(くのおんかた 母・懐子の異母妹)を寵愛していましたが、中務、平子とねんごろになると、九の御方を、異母弟の為尊(ためちか)親王と結婚させたと記されています。

晩年は風流者といわれて

すっかりお騒がせな花山天皇ですが、和歌・絵画・造園・建築・工芸など多方面に才能を発揮し「風流者」といわれました。特に和歌は、天皇時代には内裏で歌合わせを行ない、勅撰(ちょくせん)和歌集『拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)』の撰者として有力視されています。

また、今でも多くの人が詣でている西国三十三か所めぐりは、法皇となった花山院が始めたといわれ、各霊場で詠んだ和歌が御詠歌(ごえいか)として継承されています。

花山天皇は、寛弘5年(1008)、花山院にて40歳で崩御。悪性腫瘍だったと伝えられています。花山院は、現在の京都御苑内に、明治維新まで存続していた天皇譲位後の御所のことです。

まとめ

女性関係で側近を振り回し、藤原氏の権力争いにも影響を与えた花山天皇。「内劣りの外めでた(見かけは立派だが中身が伴わない)」とも称され、天皇としては異端の存在といえますが、芸術的才能に優れた和歌の名手として現代にまで語り継がれています。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/深井元惠(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
HP: https://kyotomedialine.com FB

引用・参考文献/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)

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