「方広寺鐘銘事件」の内容と結果

なぜ、鐘銘にこれほどこだわったのか。それは「国家安康」「君臣豊楽」の二句があったからです。家康は、「徳川を分断し、豊臣の繁栄を願うもの」とやり玉にあげ、大仏殿供養の延期を求めました。そして、家康のブレーンでもある朱子学者・林羅山(はやし・らざん)を始めとした高僧に鐘銘の解読を命じました。

方広寺の鐘。「国家安康」と「君臣豊楽」の二句が確認できる。

林羅山が豊臣方を責め立てる

宝暦2年(1752)に編纂された『摂戦実録大全(せっせんじつろくだいぜん)』によると、京都五山の見解は、いずれも「非常識ではあるが呪詛というほどでない」というものでした。ところが、羅山だけは呪詛と断言。

羅山は「国家安康は、諱(いみな)を侵している。無礼で不法極まりない。その上で諱の字の中を切るのは沙汰の限り。呪詛の意図がある」と訴え、銘文を記した清韓(せいかん)は、「国家安康というのは、家康の字を隠し題に入れて縁語にしている。名を分けることは今も昔も縁語では多くあり、全ては家康の名を尊重するためである」、と見解を述べたと伝えています。

しかし、羅山は銘文前文の「右僕射源朝臣家康公」についても、右大臣の秀頼が源=徳川家を射るものだとしました。

秀頼・淀殿、和解案を拒絶

この事態に、秀頼は片桐且元を駿府(すんぷ)城へ派遣。且元は豊臣家の宿老でありながら、関ヶ原の戦い後は徳川家へ娘を人質に出し、領地を与えられるなど家康とも非常に近しい関係でした。

しかし、その且元ですら何日たっても家康には面会できず、家康の参謀役でもある金地院崇伝(こんちいん・すうでん)らに釈明を試みますが、崇伝らは受け入れません。ところが、そのすぐあとに駿府を訪れた、淀殿の乳母・大蔵卿(おおくらきょう)に家康はすんなりと対面し、鐘銘について問いただすこともなく、ていねいに接したといいます。

結局、且元に出された和解案は、「秀頼を江戸に参勤させる」「淀殿を人質として江戸に置く」「秀頼が国替えに応じ大坂城を退去する」の3案でした。ちなみにこれは、一連の出来事を重くみた且元自身が、豊臣に危害が及ばないよう秀頼らに提案したという説もあります。当然、秀頼や淀殿はこれをすべて拒絶しました。

現在の駿府城

片桐且元、失脚

且元は、徳川方にすり寄った和解案を持ち帰ったことや、大蔵卿は家康に鐘銘に関する叱責を受けなかったことなどで、大坂に戻ったあと家康との内通を疑われます。その上暗殺計画のあることを知り、屋敷に籠城。秀頼は、9月27日、且元の執政の任を解き、且元は10月1日に一族や配下の兵を率いて、弟・貞隆(さだたか)の茨木城に退去しました。

一方、銘文を書いた清韓。南禅寺を追われ、大坂城に篭もりましたが、逃亡したところを捕らえられ駿府で拘禁されたまま元和7年(1621)に死去。崇伝は東福寺長老より清韓の救援を依頼されましたが、これを拒否したとも。同じ南禅寺の僧でありながら、思想的に対立していたと伝えられています。

その後

徳川家との交渉を担っていた且元が罷免に追い込まれたことに、家康は激怒。豊臣方の宣戦布告とみなします。豊臣家も全国の大名や浪人に、大坂城に集結するよう強く呼びかけました。こうして、両者はついに「大坂冬の陣」へ突入することとなりました。

大坂冬の陣は一旦、講和が結ばれましたが、火種は残り、「大坂夏の陣」が勃発。豊臣家は滅亡に至ります。

さて、事件の発端となった梵鐘ですが、壊されることもなく方広寺に安置され、今では国の重要文化財に指定されています。大仏は寛政10年(1798)、落雷により大仏殿ともども焼失しました。

現在の大阪城

まとめ

方広寺の鐘銘について家康の言いがかりばかりとはいえず、京都五山の僧が見解を示したように、豊臣方にも落ち度はありました。当時、諱が特別なものであることは清韓も理解していたはず。それにもかかわらず家康の了解も得ず、しかも分断して使っていることには、何らかの意図を指摘されても仕方のないことといえるでしょう。

そこを突き、飴と鞭で対処した家康、そして家康の意図を汲んだであろう林羅山や金地院崇伝の言動に、仲介役だった且元も豊臣家も翻弄されます。機を逃さない家康のしたたかさに豊臣家は足元をすくわれ、破滅への道を踏み出したといえそうです。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/深井元惠(京都メディアライン)
HP: https://kyotomedialine.com FB

引用・参考文献/
『国史大辞典』(吉川弘文館)

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