家康の正室として扱った粋なナレーション

それぞれの最愛の者の死を受け入れて、真の夫婦になれた家康(演・松本潤)と於愛(西郷殿)。(C)NHK

I:そして、於愛の方が若くして亡くなったことがナレーションで説明されました。ああいう和気あいあいとした微笑ましい場面に被せてこられると、なんだか涙がボロボロこぼれてしまいました。

A:ちょっと粋な計らいだと思ったのが、ナレーションで〈西郷殿こと於愛の方様、この一年後にご逝去〉と彼女の呼称を「西郷殿」にしていることですね。

I:あ、気がつきませんでした。「西郷局」ではなく「西郷殿」にしたということは、家康の正室であったという説を採用したということですよね。「局」と「殿」というのは大きな違いです。家康の正室ということでしたら本作での扱いも納得ですね。

A:於愛の方の最期については、害されたという不穏な記録も残されていますが、その真相は定かではありません。本作のようにその部分を曖昧にした美しい流れもいいですよね。

お市の方の長女茶々のサプライズ登場

I:終盤に入って、茶々が登場しました。これまで茶々の配役は発表されていなかったので、「もしや」という声がなかったわけではありませんが、お市の方を演じた北川景子さんが再登場というサプライズでした。

A:いや、せっかくのサプライズなわけですから、オープニングのクレジットは「茶々  〇〇〇〇」とか「茶々 敢えて秘す」とか、徹頭徹尾秘して欲しかったですね。こんな壮大なるネタばらしってあります(笑)? ふだんあまり使うことのない言葉ですが、「画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く」とはまさにこのことと指摘しておきたいです。

I:何はともあれ、茶々の登場もインパクト大でした。仮面をかぶって家康(当時は松平元康)と戦った母お市の初登場時と変わらぬインパクト。啞然とした家康の表情が本当に本当に絶妙で、「そんなに驚かないで!」と語りかけたいくらいでした。

A:ずいぶんやんちゃな茶々でしたが、今後どういうふうに描かれるのでしょうか。茶々の父浅井長政(演・大貫勇輔)は織田軍との戦いで滅ぼされました。当時秀吉(演・ムロツヨシ)は織田軍の主力です。母お市の方も秀吉に攻められて命を落としました。つまり、茶々にとって、秀吉は両親の仇。側室になるよう求められた時、どんな思いだったのでしょう。

I:そう考えると、秀吉や家康に向かって火縄銃を向けて「ダーン」とおどけてみせた茶々の心の襞には深い深い傷があったのでは、と思わされますね。本作では戦国女性の心の機微を描くのに熱心ですから、今後、茶々をめぐってどんな人間模様が展開されるのか、注目していきたいと思います。

A:さて、劇中本編が「徳川家康のおんなたち」という展開だったので、天正16年を俯瞰してみたいと思います。このころ奥州では伊達政宗が22歳の若武者に成長し、叔父の最上義光と悶着を起こしていました。前年の天正15年には九州に出陣した秀吉が最初の「伴天連追放令」を発しています。世界史に目を転じると、イギリス海軍がスペインの無敵艦隊を破ったアルマダの海戦が行なわれていました。

I:中国も明(ミン)の末期ですね。

A:この先秀吉が「唐入り」を目指しますが、明が衰亡しつつあることを察知していたのでしょうね。結局、明を滅ぼして清王朝を築いたのが満州からやってきた愛新覚羅家です。漢民族からすれば異民族。そうした状況下で秀吉は「唐入り」を目指していたというわけです。

I:そして、本編ではいよいよ小田原北条攻めにさしかかります。

A:伊達政宗、登場するのですかね?

秀吉(演・ムロツヨシ)の側室となったお市の娘茶々(演・北川景子)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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