城田優演じる森長可。(C)NHK

ライターI(以下I):徳川家康(演・松本潤)と羽柴秀吉(演・ムロツヨシ)の衝突にあたって『どうする家康』では池田勝入(恒興/演・徳重聡)と森長可(演・城田優)がクローズアップされました。

編集者A(以下A):森長可(ながよし)は、本能寺の変で織田信長(演・岡田准一)とともに討ち死にした森乱(演・大西利空)、坊、力兄弟の兄に当たります。

I:乱を演じた大西利空さんの扮装が、1955年の映画『森蘭丸』の演者中村扇雀さんに激似ということをリポートしましたが、その森乱の兄に城田優さんを配してくるとはなんとも心憎い演出。城田さんは『天地人』(2009)で真田幸村を演じて以来の大河再臨です。

A:以前にも森家の物語は3か月くらいなら大河ドラマの素材になるのではないかという話をしましたが、改めて森家の歴史を概観したいと思います。城田優さんが演じた森長可は、小牧長久手合戦時の森家当主。6人兄弟の次男で、長兄に可隆(よしたか)がいました。

I:兄の可隆は織田家家臣として参陣した朝倉攻め(1570年)で討ち死にしたのですよね。

A:そうです。森可隆討ち死には、1570年の4月。俗に「信長包囲網」という戦線と信長が戦っていた時期になります。可隆が討ち死にした天筒山城の戦いは、織田軍の朝倉攻めの一環です。織田軍は勝利をおさめたわけですが、有力武将を失っていたということになります。有名な「金ヶ崎の退き口」は、この直後のことです。

I:森家を襲う悲劇はこれだけではないのですよね。姉川の合戦(6月)で織田・徳川連合軍は朝倉・浅井連合軍に勝利しますが、織田・朝倉の戦いは姉川で終わったわけではない。

A:はい。9月には現在の滋賀県大津市にあたる宇佐山城で合戦があり、森兄弟の父である森可成(よしなり)が討ち死にします。この合戦では信長の弟信治も討ち死にしていますから、激しい戦闘が交わされたのでしょう。

I:一乗谷城落城、小谷城落城などで、浅井・朝倉連合軍が敗れたのは、1573年。そして、森家の家督は、本作で城田優さんが演じている長可が継ぎ、弟の乱、坊、力、仙(仙千代)の兄弟が信長に小姓として仕えることになったのですね。兄弟5人と父が全員討ち死にするとは戦国屈指の悲劇ですね。

A:はい。劇中では乱(森蘭丸)が登場しましたが、乱、坊、力の森三兄弟が本能寺で信長に殉じるわけです。末弟の仙が生き残ったのは、なんだか粗相があって実家に戻されていたといいます。人生何が幸いするかわかりませんね。

次男の長可の「遺言状」

I:そして、第31回、32回で描かれるように次男の長可も討ち死にしてしまう。父森可成を始め、その6人の息子の中で、可隆、長可、乱、坊、力の5人までが織田家に殉じたことになります。

A:聞くも涙、語るも涙とはこういうことを指すようなお話です。そして、劇中で城田優さんが演じた森長可は、鬼武蔵と称される武勇の人の側面が描かれていましたが、実は討ち死に半月程前に「遺言状」ともいうべき書状をしたためています。この書状はわりと有名なものです。『消された秀吉の真実 徳川史観を越えて』(柏書房)の受け売りになりますが、長可は、自分が討ち死にした場合、茶壷や天目茶碗などを秀吉に進上すること、弟の忠政(仙)の行く末について存念を記すなど、単なる豪勇の士ではない繊細な側面をみせています。

I:知勇を兼ね備えたすぐれた武将だったんですね。

A:ということで、森家の家督は、実家に戻されて難を逃れた仙が継承することになります。森6兄弟の六男になります。父や5人の兄が殉じた織田家ではなく、時勢の流れで秀吉に仕えることになります。その胸中を思うと涙が出てきそうになります。

I:その仙改め忠政ですが、兄の長可を裏切った人物を探し出して磔にしたり、石田三成と確執を表面化させるなど、なかなかに生臭い御仁のようですね。最終的に美作津山藩18万石の藩主におさまるというのが森家の物語ですね。

A:そして、その後も森家の物語は続きます。江戸中期にいったん改易になるのですが、名家ということで、減封の上で存続を許されます。新たに与えられたのが、赤穂藩です。

I:赤穂浪士の赤穂藩ですね。豊臣系大名だった浅野家の領地を与えられたということですね。

A:以降、森家は幕末まで赤穂藩主として続きます。

I:なるほど。赤穂には何度か取材に行ったことがありますが、大石神社に森長可の甲冑があるのはそうした縁なのですね。普段展示はしていないけど、長可の十文字槍(銘「人間無骨」)も所蔵しているそうですよ。

A:どうでしょう。1年まるまるはムリかもしれないですが、3か月のショート大河の素材にはなると思いませんか?

I:残りの9か月はどうするのですか?

A: 残りの9か月? それは次週までの宿題にしたいと思います。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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