文/池上信次

ジャズの歴史は変化の連続です。変わり続けることがジャズという音楽の要件のひとつなのか、あるいは「つねに新しい」音楽をジャズというのか。さまざまな見方ができますが、「新しい」ことはいつの時代もジャズにとって大きな価値、意味があることは、ジャズを聴き続けている人ならば意識せずとも感じていることだと思います。そして、ジャズの「新しさ」はレコードという商品にとっても大きな「売り」であり、レコード会社はそれをつねにアピールし続けてきました。今回は、ジャズにとっていかにその「新しさ」が重要であったかを、アルバム・タイトルから追ってみたいと思います。


マイルス・デイヴィス『The New Sounds』(10インチLP/Prestige)
演奏:マイルス・デイヴィス(トランペット)、ジャッキー・マクリーン(アルト・サックス)、ウォルター・ビショップ(ピアノ)、トミー・ポッター(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1951年10月
ここに収録されている音源は、のちの12インチLP時代に『ディグ』などのアルバムに分散収録されました。

この、「新しさ=ジャズにとっての価値」を、LPレコード時代初期から大きくアピールしたレコード会社のひとつがプレスティッジ・レコードでした。1950年代初頭にLPレコードが開発され、レコード会社各社は続々と10インチLPでの新作制作やSPシングル音源の編集再発リリースを始めました。ここで初めてアルバム・タイトルの必要性が生じたわけですが、プレスティッジは1951年から『The New Sounds』という共通タイトルでたくさんのLPをリリースしたのでした。アーティストは、マイルス・デイヴィス、リー・コニッツ、スタン・ゲッツ、ジェリー・マリガン、アレン・イーガー、レッド・ロドニー、チャーリー・マリアーノなどで20枚以上ありました。この「The New Sounds」にはLPレコードという「新しい音」の意味も含まれているのでしょうが、この10インチLPのシリーズには同じ体裁の『The New Sounds From Sweden』が8タイトルありましたので、メインは「新しいジャズ」なのでしょう。


ホレス・シルヴァー・トリオ『New Faces-New Sounds』(10インチLP/Blue Note)
演奏:ホレス・シルヴァー(ピアノ)、カーリー・ラッセル(ベース)、ジーン・ラミー(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1952年10月
ブルーノート・レコード「New Faces-New Sounds」シリーズ最初の1作。同時期の同レーベルのアルバムすべてがこのタイトルというわけではありません。選ばれた人だけに「New〜」が付けられました(マイルス・デイヴィスのアルバムには付いていません)。

そしてそれを追ったのがブルーノート・レコードでした。ブルーノートもプレスティッジ同様に、共通タイトルで10インチLPをリリースしました。タイトルは『New Faces-New Sounds』。アーティストは、ホレス・シルヴァー、ウィントン・ケリー、ルー・ドナルドソン、クリフォード・ブラウン、ケニー・ドリュー、エルモ・ホープ、フランク・フォスター、ギル・メレらで、リリース開始は1953年でした。

なお、これら10インチLPというフォーマットは数年で廃れてしまい、その後は12インチLPが主流になります。12インチLPの時代になるとアルバムの作品性が強くなり、ただ「New」では新鮮味は薄くなり、個々のタイトル・ネーミングにはますます知恵が絞られたと思われます。そんななかで、突出した「新しさ」を(音楽はもちろん)アルバム・タイトルで打ち出していたのが、デビュー当時のオーネット・コールマンです。


オーネット・コールマン『サムシング・エルス!』(Contemporary)
演奏:オーネット・コールマン(アルト・サックス)、ドン・チェリー(トランペット)、ウォルター・ノリス(ピアノ)、ドン・ペイン(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラムス)
録音:1958年2月、3月
ジャケットにあるように、オリジナル・タイトルの「!」は4つですが、現在の国内盤タイトルはひとつだけ。当時は、ひとつでは足りないインパクトだったのでしょう。

*オーネット・コールマンの初期のアルバム
1)『Something Else!!!!』(Contemporary/1958年録音)
2)『Tomorrow Is the Question!』(Contemporary/1959年録音)
3)『The Shape Of Jazz To Come』(Atlantic/1959年録音)
4)『Change Of The Century』(Atlantic/1959年録音)

この4枚はリリース順です。1)がデビュー・アルバム。「something else」はスラングで「すごいもの、素晴らしいもの」という意味ですが、「!」が4つも付いているところに尋常らしからぬものを感じますね。2)からはどれも初発売当時には日本語タイトルが付いているのですが、これがまた素晴らしいセンスでオリジナルに輪をかけて「新奇さ」をアピールしていました。『Tomorrow Is the Question!』の日本語タイトルは『明日が問題だ』。3)『The Shape Of Jazz To Come』は『ジャズ来る(きたる)べきもの』。これは現在も日本語タイトルになっていて有名ですね。4)『Change Of The Century』は『世紀の転換』。直訳なのですが、なにかとてつもないことが起こっていそうですよね。ちなみに、1977年にリリースされた68年録音の未発表音源アルバムはこのフィーリングを引き継いでか、『The Unprecedented Music Of Ornette Coleman』(Joker)というタイトルでした。意味は「前代未聞」、日本語タイトルは『未踏峰』。強烈ですね。今ではこれらオーネットの音楽は(ジャズはどんどん新しくなっているので)わりとフツーに聴けてしまい、そのインパクトは弱まってはいますが、これらのタイトルは当時けっして大げさなものではなかったと思われます。アルバム・タイトルは、ジャズの歴史を考える上ではとても重要な「作品の一部」といえるのではないでしょうか。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 


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