文・絵/牧野良幸

ムツゴロウさんこと畑正憲さんが4月に亡くなられた。僕はことさら動物好きとは言えないが、畑正憲さんの活動は目にしてきた。今回はその畑正憲さんが監督した映画『子猫物語』を取り上げてみたい。

『子猫物語』は1986年公開の映画だ。畑正憲は脚本・監督を担当している。協力監督として市川崑の名前があるところに80年代を感じる。

この映画の音楽を担当したのが坂本龍一というところも目を引く。坂本龍一は第77回『戦場のメリークリスマス』で取り上げたばかり。くしくもお二人が続いて鬼籍に入られたことには言葉もない。

坂本龍一は1983年の『戦場のメリークリスマス』の3年後にこの『子猫物語』の音楽を担当したことになる。「戦メリ」の大ヒットなど、時代の最先端を走っていた坂本龍一は動物映画の音楽も作っていたのだ。吉永敬子が歌う主題歌も坂本龍一の作曲だ。

さて『子猫物語』。本作はチャトランという名前の子猫の冒険物語である。

オープニングは幻想的な大自然の映像に坂本龍一の音楽が重なり重厚だ。テレビの動物番組でも見るつもりで気楽に構えていると身を正してしまうことになる。しかし生まれ出たチャトランが外に出て遊ぶようになってからは、動物映画らしく明るい映像である。

ある日、チャトランは川岸にある木箱に乗ると、そのまま流されてしまう。チャトランの親友である子犬のプー助が一生懸命追いかけるが見失う。

川を流されて見知らぬ土地にたどり着いたチャトランが、さまざまな動物と遭遇しながらたくましく生きていくところがこの映画のストーリーだ。

登場するのは動物だけ。ナレーション(露木茂)と随所に詩の朗読(小泉今日子)が挿入されるもののスクリーンに人間はいっさい出てこない。人間を感じさせるのは牧場の建物や鉄道くらいで、完全に動物だけで作り上げた映画である(あと大自然も主要な登場人物と言える)。

もちろんただの動物紹介映画ではない。きちんとしたストーリーがある。

『子猫物語』を見て僕がまず連想したのは昔のディズニーの動物映画だった。1960年代に幼少を過ごした方ならご存じと思うが、当時は金曜日の夜に『ディズニーランド』という番組が放送されていた。白黒テレビの時代である。多分プロレス中継と交互に放送されたと思う。

その『ディズニーランド』で動物が主人公の映画をよく見た記憶がある(曖昧だが)。ディズニーだからアニメが見たかったのだが、実写の動物映画も子どもの心をつかんだのだった。

『子猫物語』はそのディズニーの動物映画を連想させた。しかし映画を見て、これはディズニーに負けず劣らずいい作品だと思った。というか動物映画はディズニーしか作れないと思っていただけに、日本でもこれだけの動物映画を作ったのは素晴らしいことだと思う。現代のアニメやゲームにドップリつかっている子どもたちも引き込まれることだろう。もちろん大人が見ても引き込まれる。

素人目で感心したのは、動物が画面の中に奇麗に収まって自然な動きをしていることだ。

例えばチャトランとプー助が木陰で遊んでいると、牧場から牛の鳴き声が聞こえる。プースケが動きを止めて鳴き声の方に顔を向ける。一瞬遅れて草影に隠れていたチャトランもすっと顔を出して鳴き声の方を見る。そのタイミングが素晴らしい。まるで人間の俳優のようである。

他にもチャトランが熊に襲われたり、キツネや子ブタと共演するシーンなど、どうやって撮ったのだろうと思うシーンばかりだ。動物たちの絡みを、構図を整えて一定時間画面の中に収めるのは大変なことではないか。

もちろん映像や音声は編集によるところも大きいだろう。しかしそれにしても動物たちはうまく物語にそうように演技している(動いている)。動物と心が通っていなければ、ここまでの撮影は無理だろう。最後のテロップには動物に関わったと思われる肩書の人たちがたくさん出ていた。いろいろなご苦労があったと思う。

坂本龍一の音楽も全編で重要な役割を担っている。チャトランの楽しい気分、不安や恐れなどを音楽で表現している。映画音楽の貢献度としては「戦メリ」以上ではないか。

坂本龍一の音楽にのって生き生きと動く動物は鉄板だ。子猫のチャトランはやっぱりかわいいし、子犬のプー助もかわいい。子ブタたちもかわいかった。走り方や顔の表情だけを切り取ってもかわいいと思う。

最初に僕は動物好きな方ではないと書いたが、いいおっさんがこの映画を見てトロンとしたのである。ネットで動物の動画が人気なのもわかる。動物が好きな人はもちろん、そうでない人も動物が好きになる映画だ。

【今日の面白すぎる日本映画】
『子猫物語』
1986年
上映時間:95分
監督:畑正憲 市川崑(協力監督)
脚本:畑正憲
出演:チャトラン(子猫)、プー助(犬:パグ)、他、動物多数、
詩の朗読:小泉今日子、ナレーション:露木茂
音楽:坂本龍一
主題歌 「子猫物語」/吉永敬子

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

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