I:私がもうひとつ印象的だったのは、信長から加勢を命じられて参陣していた佐久間信盛(演・立川談春)や水野信元(演・寺島進)が家康敗退を見て、戦場から離脱する場面が描かれたことです。
A:劇中、家康が自ら信長に談判して得た援軍からは、かつて信長に諫言して切腹した平手政秀の息子とも孫ともいわれる平手汎秀(ひろひで)が戦死しています。信長家康の場面があったおかげで、戦線離脱がひときわ目立つ形になりました。佐久間信盛、水野信元のふたりの行く末を思った時、「この時のことを根に持たれていたのか」と思ったりしました。
合戦シーンにしっかり尺がとられた!
I:今週は合戦シーンが尺をとって展開されました。合戦シーンが好きな視聴者は喜んだのではないでしょうか。コロナ禍以前のような大規模なロケがなかなかできない中で、臨場感ある合戦シーンを描きたいという意気込みが伝わってきました 。
A:CGの多用を批判する人もいますが、実写ではなかなか表現が難しい「魚鱗の陣」が描かれました。これは素直に評価したいと思います。前週にも言いましたが、今後どんどん技術はアップデートしていくと思われます。その過渡期に立ち合えていることは嬉しいことです。
I:さて、今週は、夏目広次だけがフィーチャーされるのかと思っていましたが、本多忠真(演・波岡一喜)と本多忠勝(演・山田裕貴)の叔父甥コンビのやり取りも描かれて、このシーンも胸にジーンと響きましたね。
A:本多忠真は、三方ヶ原で討ち死にします。家康天下取りの過程では多くの家臣の犠牲があったということを象徴する場面になりました。劇中では登場していませんが、鳥居元忠(演・音尾琢真)の実弟鳥居忠広や成瀬正義(弟が尾張藩付家老になった正一=犬山城主)など戦死者も多かったのです。
I:劇中では、浜松城の門を開けていたことが描かれました 。空城の計という解説がなされましたが、実際に行なわれたようです。信玄が〈見逃してやろうではないか〉と大仰に構えていましたが、実際にはギリギリの心理戦だったのでしょうね。劇中、浜松城に戻った家康は呆然としながら横臥していました。実際には、湯漬けを何杯か食して、高いびきで寝ていたとも伝承されています。
A:その姿を見て、家臣団はほっとしたともいいますね。そして、この三方ヶ原合戦シーン撮影の裏側を活写した『100カメ』が5月16日火曜日23時から放送されるようです。
I:昨年の『鎌倉殿の13人』では富士の巻狩りの撮影の裏側に密着していて楽しませてもらいました。なんだかこちらも待ち遠しいですね。
A:昨年はチーフ演出の吉田照幸さんがメロンパンとカレーパンを買い間違えたという場面まで挿入されていました。今回はそんな珍場面があるのでしょうか(笑)。
「信玄の病」が歴史を変えた!
I:第18回のラストで、ぐったりした様子の武田信玄(演・阿部寛)が描かれました。
A:感慨深いですね。将軍足利義昭が〈なぜ信玄は来んのじゃ〉とうろたえていましたが、信玄が病に倒れたおかげで 、信長は九死に一生を得ました。
I:「信長が九死に一生を得た」というのは信長目線の言葉ですね。足利義昭にとって、「信玄倒れる」は痛恨の出来事だったと思います。そういう意味では、古田さん演じる義昭の狼狽ぶりが印象に残りますね。
A: 信玄の病が歴史を変えた! といっても言い過ぎではないですよね。そして、このとき家康31歳。信玄のあとを継ぐ、武田勝頼(演・眞栄田郷敦)は28歳。両者の攻防は今後も続きます。
I:眞栄田郷敦さんと松本潤さん……。直接の絡みはないかもしれませんが、めちゃくちゃ楽しみですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり