高品質の音響設備でレコードが刻む豊かな音楽を堪能する贅沢な時間……。日本独特の文化を心ゆくまで体験できる、東京・京都・大阪の名店を紹介する。

音楽サロンのような雰囲気に溢れる空間

立命館大学の衣笠キャンパスの近く、住宅街に佇む『音楽喫茶ムジーク』。クラシックの音楽事務所に勤めていた渡辺節夫さん(74歳)が昭和62年(1987)に開店。当時、京都の名曲喫茶が次々と閉店し、このままでは音楽の灯が消えてしまうという危機感があったと話す。5年前に病気で一時休業したが、常に音楽とともにいたいと再開した。

「レコードを取り出し、針を落として、“さあ聴くぞ”という心構えが好きですね。以前、職場見学で来店した中学生が食い入るように音楽に向き合ってくれたのが嬉しかったです。レコードには心を揺さぶる音があります」と話す渡辺さん。そんな渡辺さんのお気に入りの一枚は、20世紀の巨匠指揮者、ブルーノ・ワルターによるベートーヴェンの交響曲第6番「田園」である。イギリス・タンノイの大型スピーカーからは、80歳を超えたワルター最晩年の、貫禄あるふくよかな演奏が響き渡る。

SPレコードにも対応するテクニクスSL-1200MK4を使用。クォーツシンセサイザー方式で正確な回転を実現するプレーヤー。
ブルーノ・ワルター指揮、コロンビア交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。1958年録音。ワルター円熟の一枚。

温厚な渡辺さんの人柄も相まって、店は音楽サロンのような雰囲気に溢れる。3か月に一度、指揮者・フルトヴェングラーの愛好家が集まる会を開いたり、若い音楽家がSPレコードを聴きにきたりと、クラシック好きの輪が広がる。サイフォンで淹れたコーヒーを手に、音楽を慈しみたい。

外光が気持ちいい窓際の席で。ブルーマウンテンを使いサイフォンで抽出したコーヒー450円。店内には音楽に関する書籍も多い。

店主の渡辺節夫さん。38歳のときに店を開いた。モーツァルトやベートーヴェンが好きで、ワルターの指揮がお気に入りだ。

音楽喫茶 ムジーク

京都市北区小松原北町30-5
電話:075・464・9931
営業時間:13時~18時
定休日:金曜、土曜、日曜、祝休日 
交通:京福北野線等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅から徒歩約7分
15席

取材・文/関屋淳子 撮影/奥田高文
※この記事は『サライ』2023年6月号より転載しました。

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