⼤河ドラマや時代劇を観ていると、現代ではあまり使われない⾔葉が多く出てきます。一定の理解でも番組を楽しむことはできますが、セリフの中に出てくる歴史⽤語を理解していたら、より楽しく鑑賞できることと思います。

そこで、【戦国ことば解説】では、戦国時代に使われていた⾔葉を解説いたします。⾔葉を紐解けば、戦国時代の場⾯描写がより具体的に思い浮かべていただけることと思います。より楽しくご覧いただくための⼀助としていただけたら幸いです。

さて、この記事では「赤備え(あかぞなえ)」という⾔葉をご紹介します。

赤備えとは、将兵の武具を全て赤色に統一した軍勢のことです。武士だけではなく、足軽も赤に統一されていました。武田(たけだ)・井伊(いい)・真田(さなだ)の赤備えはよく知られています。兵士の装備の色を統一することで、敵味方の区別が容易になることと、団結力の向上、視覚による威嚇効果が期待されました。

2023年NHK大河ドラマ『どうする家康』では、武田信玄の筆頭重臣である山県昌景(やまがた・まさかげ)の赤備えは戦国最強と言われるほどの存在感を放ちます。そして、昌景が率いる赤備えは、三方ヶ原(みかたがはら)の戦いで、徳川家康の軍勢に正面突破をしかけ、家康を恐怖のどん底に叩き落とします。

目次
赤備えとは?
武田の赤備え
井伊の赤備え
真田の赤備え
なぜ戦場で目立つ赤を用いたのか?
まとめ

赤備えとは?

赤備えとは、武士から足軽に至るまで、将兵の武具を全て赤色に統一した軍勢のことです。武田・井伊・真田の赤備えはよく知られています。兵士の装備の色を統一することで、敵味方の区別が容易になることと、団結力の向上、視覚による威嚇効果が期待されました。

戦国時代には、赤備え以外にもさまざまな甲冑・武具が登場しました。それらは単に機能面だけではなく、武将たちの自己表現という側面もあったのです。

武田の赤備え

赤備えはもともと、武田の軍勢から始まりました。当初は武田家臣の飯富虎昌(おぶ・とらまさ)が始めたとされています。しかし、虎昌はさまざまな活躍を見せるも、謀反に関わった罪で自害することになりました。

その後、虎昌の弟である山県昌景が兄の部隊を引き継ぎます。赤備えとして、部隊の装備を赤く統一しました。昌景率いる赤備えもまた、大きな活躍を見せ、元亀3年(1572)の三方ヶ原の戦いでは、「さても山県という者、恐ろしき武将ぞ」と家康に言わしめるほどの打撃を与えています。

山県昌景肖像(『甲越勇將傳武田家廾四將』歌川国芳筆)

井伊の赤備え

井伊の赤備えは、武田氏滅亡後に山県昌景の遺臣を預かったことに由来します。

天正10年(1582)、家康は徳川四天王の1人・井伊直政(いい・なおまさ)に武田氏の遺臣をつけました。家康はさらに、武田軍の赤備えの伝統を受け継ぎ、直政の軍団も赤備えとするよう命じます。これによって直政は、武田の精鋭部隊を名実ともに継承し、徳川家臣団の中でも有数の軍事力を備えることになりました。

これ以降、天正12年(1584)の小牧・長久手の戦いをはじめ、直政は主要な合戦で戦功をあげました。跡を継いだ井伊直孝(いい・なおたか)も、大坂の陣で赤備えを率いて大きな活躍を見せています。井伊の軍勢が合戦時に先鋒を務めた時は、敵から見ると火の塊が突進してくるように見え、「井伊の赤鬼」と恐れられました。

「井伊の赤備え」はその後、幕末まで、江戸時代を通じて受け継がれていきました。

井伊直政像(彦根城博物館所蔵)

真田の赤備え

大坂夏の陣では、豊臣方の真田幸村(さなだ・ゆきむら)が赤備えを率いて、戦いました。この時、幸村は家康の陣に正面突破をしかけ、一時は家康の本陣まであと一歩のところまで接近。家康は自決を覚悟したと言われています。しかし、多勢には勝てず、幸村は戦死してしまいます。幸村のすさまじい戦いぶりは、徳川方にも「日本一の兵」と称賛されるほどでした。

なお、真田家は幸村の祖父・真田幸隆(さなだ・ゆきたか)と父・真田昌幸(さなだ・まさゆき)が武田家に仕えていました。幸隆は、武田二十四将の1人として数えられるほどの重要人物。ここに、赤備えの元祖である武田家と真田家の強いつながりを見ることができるでしょう。

真田幸村像(上田市立博物館所蔵)

なぜ戦場で目立つ赤を用いたのか?

それにしても、なぜ赤という、戦場で目立つ色が甲冑に用いられたのでしょうか? これは日本に限りません。ローマ帝国の指揮官のマントも赤色ですし、馬にまたがるナポレオンが羽織っているマントも赤色です。目立てばその分、敵から狙われやすくなります。現代の戦場で、兵士が迷彩服に身を包んでいるのとは、対照的です。

ナポレオン像(『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』ジャック=ルイ・ダヴィッド筆)

理由の1つに、赤色と闘争心の関係が考えられます。赤色には、闘争心を高める効果があり、例えば、縄張り争いの激しい熱帯魚のベタは、赤い方が強い個体として認識されるということです。また、鳥を使った実験で、足首に黄緑の輪をつけた鳥と赤い輪をつけた鳥では、赤い輪の方が生存率も繁殖率も高いという研究結果が報告されています。

これらのことから考慮して、赤い衣装は、敵ではなくて自分自身を鼓吹するためだったと考えることもできるでしょう。

まとめ

その色が特徴的な赤備えは、武田家にルーツがあります。赤備えは、戦場で敵に狙われやすくなるリスクを冒してでも、自分を奮い立たせ、敵に打ち勝とうとする強い意志の現れと見なすことができるでしょう。自分を鼓舞したい時は、ファッションに赤色を取り入れてみるのもいいかもしれません。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/三鷹れい(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『⽇本⼤百科全書』(⼩学館)
『世界⼤百科事典』(平凡社)

 

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