「はやぶさ」や「とき」など、列車の愛称に鳥の名前が使われるようになったのはいつ頃からか。鉄道研究家の寺本光照さんに聞いた。
はと
東京〜大阪ほか 1950年(昭和25)〜1960年(昭和35)ほか
「愛称が付けられた列車が初めて運転されたのは、今から90年以上前の1929年(昭和4)4月15日からで、東京駅〜下関駅(山口県)間を走る特急列車に『櫻(さくら)』と『富士』が命名されました」
この愛称は、利用客の減少に苦慮した鉄道省が実施した一般公募に集まった上位10点の(1)富士、(2)燕(つばめ)、(3)櫻、(4) 旭(あさひ)、(5) 隼(はやぶさ)、(6) 鳩(はと)、(7) 大和(やまと)、(8)鴎(かもめ)、(9) 疾風(はやて)、(10)千鳥(ちどり)、から選ばれた。
この中には鳥の名前が5つあり、「最初に鳥の名前が採用されたのは、翌1930年(昭和5)に登場した『燕』でした」(寺本さん)
ひばり 上野〜仙台ほか
1961年(昭和36)〜1982年(昭和57)
親しみやすさやスピードでトレインマークに選ばれた
公募結果の上位の半分が鳥の名前だったことについて、前出の寺本さんはこうみる。
「これらの鳥は人々に馴染みがあるうえ、飛ぶスピードが速い、というイメージがあり、特急列車にぴったりと思われたのでしょう」
一方で、初めは名前が浸透しなかった鳥の例もあった。1962年(昭和37)に上野駅〜新潟駅で運転を開始した特急「とき」は、新潟県の佐渡島などに棲息する国際保護鳥のトキにちなむ命名だったが、希少な野鳥ゆえ知名度は低かった。寺本さんが想像する。
「トレインマークがイラスト化される前のことですが、特急『とき』が登場した日は“時の記念日”で、当時の国鉄は利用客の誤解を恐れたのか、マークの列車名『とき』の文字の下に漢字で『朱鷺』と小さく書き添えられていました」
とき 上野~新潟ほか
1962年(昭和37)~1982年(昭和57)
鳥の列車名の中には「はつかり」「ゆうづる」「はくたか」など正式な鳥名ではないものもある。
「ガンカモ目のガンの別名である雁や、鶴や鷹は、そのままでは列車名として馴染まないためか、アレンジが加えられたのでしょう。その冬の最初の飛来を示す『はつかり』や夕空を飛翔するイメージの『ゆうづる』はロマンを感じさせる列車名です」(寺本さん)
こうして長らく、漢字やひらがな、ローマ字で表記されてきた列車名は、1978年(昭和53)に国鉄のデザイナー、黒岩保美らによってイラスト化された。
かもめ
東京〜神戸ほか1937年(昭和12)〜など
1987年(昭和62)の国鉄民営化後は、個性的な車両が出現し、入れ替わるように、人々に親しまれてきたトレインマークは徐々に姿を消してゆく。同じような外観の車両が全国で活躍していた時代には、それぞれの列車を識別する「顔」だったトレインマークが、その役目を終えたのだ。
だが、現在でも新幹線の列車名には「つばめ」や「はやぶさ」など5つの鳥にまつわる愛称が受け継がれている。寺本さんが語る。
「東海道新幹線には当初、列車に愛称を付けず、単に号数で呼ぶ予定でした。しかし、それでは分かりにくいと列車の愛称を求める声が寄せられ、『ひかり』と『こだま』の愛称が誕生しました。在来線の特急列車から新幹線に引き継がれた『とき』や『つばさ』の名は、地元や沿線の人々に定着していたからこそ今も残っているといえるでしょう」
【解説】寺本光照さん(鉄道研究家・73歳)
※この記事は『サライ』本誌2023年6月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。
取材・文/中村雅和 撮影/植野製作所、中村雅和(鳥) スタイリング/有馬ヨシノ
「鳥のトレインマークトートバッグ」【『サライ』6月号特別付録】
「ひばり」「ゆうづる」「つばさ」など列車の愛称に使われた17種類の鳥の名前のトレインマークを配したトートバッグを作製しました。往年の特急や寝台列車から現在の新幹線に引き継がれたものまで、その親しみやすさや俊敏なイメージから、長年にわたり愛されてきた鳥のトレインマーク。5月10日〜16日は愛鳥週間です。爽やかな新緑の季節、お出かけのお供にぜひお使いください。
JR北海道商品化許諾済
JR東日本商品化許諾済
JR東海承認済
JR西日本商品化許諾済
JR九州商品化許諾済
※この記事は『サライ』本誌2023年6月号より転載しました。