ライターI(以下I): 第15回では岡崎から浜松に移った家康が描かれました。領民から歓迎されたとナレーションでいっていましたが、領民が〈あれが今川様を裏切った殿様〉〈お田鶴さまを殺した殿様〉とひそひそ話をしていて、家康も居心地が悪そうでしたよね。その流れで家康に石の入った団子を食べさせようといやがらせを敢行する老婆の登場です。
編集者A(以下A):演じていたのは、ベテラン俳優の柴田理恵さん。ふだんは眼鏡をかけていますし、メイクでしっかり老婆になっていましたから、いわれないと気が付かない感じでした。
I:お田鶴の方(演・関水渚)が甲冑姿で登場した第11回でも登場して、お田鶴の方に団子を売っていました。面白い設定ですよね。柴田理恵さんは、なんと26年ぶりの大河ドラマだったそうです。
A:前回の登場は1997年の『毛利元就』だそうです。主人公の毛利元就(演・当時中村橋之助、現中村芝翫)の嫡男・隆元(演・上川 隆也)の妻・寿の方(演・大塚寧々)の侍女を演じました。『毛利元就』の脚本は内館牧子さんですが、戦国通のコアなファンならともかく一般にはあまり知られていなかった毛利元就の波乱の生涯を、硬軟押さえるところはしっかり押さえた脚本で大河の名作として語り継がれる作品ですよね。
I:その柴田理恵さんからコメントが寄せられました。まずは26年前の思い出からです。
私が演じたのは、毛利の大殿の息子に嫁入りした大塚寧々さんの乳母の役でした。そのあいさつのシーンで、ズラリと並んだ家臣の人たちにビビってしまい、ドキドキして台詞がでませんでした。おひとりおひとりは知っている役者さんで、 いっしょに飲みに行ったこともあるのに、大河の現場の空気というか、全部本物の侍に見えてしまって(笑)。休憩時間に、その家臣のみなさんから「おまえ気にすんなよ~俺なんて NG25回も出したんだぜ~」「みんな緊張するよな~大河って」となぐさめてもらい、あたたかく元気づけてもらいました。
A:柴田さんほどの手練れの俳優でも大河ドラマの現場は緊張するんですね。そして、なんだかほっこりさせられるエピソードも語ってくれました。
その後、現在でも中村芝翫さんを「大殿!」と呼ばせていただいて、仲よくさせてもらっています。
I:1997年当時は「中村橋之助」でしたが、現在は八代目中村芝翫を襲名しています。今でも「大殿!」って呼ぶって、なんかうらやましい関係ですね。大河ドラマという空間をともにした方々でなければ共有できないものがあるのでしょう。さて、柴田さんは、今回の老婆役を引き受けた理由について教えてくれました。
戦国時代は武士の時代なので、庶民の眼から語られることは少ないと思います。なので、あの時代の庶民が侍たちをどう見ていたかというのは興味深いなと思いました。大河の現場は、全てのセクションのスタッフの皆さんが自分の仕事にプライドを持ち、きちんとお仕事なさっているのですごいなと感動します。ずっと変わらない伝統のようなものを感じます。
I:さらに、「松潤家康」についても語っています。
庶民のちょっぴりいじわるな かわいい仕返しのシーンで、少しコミカルになればいいなと演出の方とお話しました。でも家康の思慮深さや大きさを感じられるシーンでもあり、松本さんが持っている優しさも出ていて、いいなと思います。松本さんは休憩中「おれ大丈夫かなぁ。心配だな~!」と笑っていましたが、今まで誰もやったことのない、人間的な家康を、見事にやっておられると思います。
A:昨年の『鎌倉殿の13人』でも大竹しのぶさんが歩き巫女のお婆婆を熱演しました。柴田さんが今後も登場するのかどうかはわかりませんが、再登場を期待したいと思います。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり