政子と実朝のやり取りがあまりに切なくて……。
I:公暁(演・寛一郎)が三浦義村(演・山本耕史)とその弟胤義(演・岸田タツヤ)の前で〈実朝を討つ〉と決心を固めます。前週に義村から、父頼家(演・金子大地)がなぜ亡くなったのか真相を教えてもらいましたから。
A:真相を知ったら普通の身内なら怒り爆発! になりますよね。義村は自分で煽っておいて、〈鎌倉殿の首をうてば謀反人。御家人たちの心が離れないようにすることが肝心かと〉と寄り添う素振りも見せます。
I:公暁は頼家死の真相を三浦義村から聞かされましたが、実朝も三善康信(演・小林隆)を問い質して、「白状」させました。図らずも叔父・甥のふたりが頼家の死の真相を同時に知ったという設定になりました。
A:頼家の死については、日本の歴史の中でももっとも非情な出来事だったと当欄でも何度も指摘してきました。重い病と闘っていた頼家が、回復して愛する妻と息子に会いたいと思った時には、すでに比企一族ともども殺されていたわけですから。真相を聞いて、心穏やかにいられる人はいないでしょう。
I:北条はそれだけ卑劣なことをしてきたんだ、と強く印象づけられる流れになりました。さて、それに加えて今週は、つつじ(演・北香那)と公暁親子、政子と実朝親子のやり取りがひときわ印象に残りました。特に政子と実朝のやり取りは本作でも屈指の名場面だったかと思います。実朝が〈母上は実の息子と孫を見殺しにした〉〈兄上がそんなに憎いのですか。私と同じ自分の腹を痛めて産んだ子ではないですか〉〈私には母上がわからない。あなたという人が〉と政子に迫ります。
A:柿澤勇人さんの好演もあって、ひときわ心に染み入る場面になりました。政子は〈北条が生き延びるためにはそうするしかなかった〉と言い訳しましたが、その前段で、母政子に優しい言葉をかけるやり取りがあっただけに、実朝の怒りがいかに強かったのか、強調された印象です。
I:真相を知った時の実朝の心情を思うと胸が張り裂けそうです。政子に対する実朝の怒りも理解できます。そして私がびっくりしたのは、実朝と公暁のふたりが和解したことです。
「嘘をつくときは襟を触る」しぐさが……。
A:実朝は公暁に対して〈私が憎いだろう、許せぬだろう〉と寄り添い、公暁は〈私は父の無念を晴らしたい〉と思いを吐露します。実朝は一気呵成に〈ならばわれらが力を合わせようではないか。父上がおつくりになられたこの鎌倉をわれら源氏の手に取り戻す〉という流れになりました。
I:ちょっとこの場面、涙が出てきました。ほんとうに感動しました。一服の清涼剤のような場面でした。そうした中で、「義時の闇」は、さらに深化してきました。時房(演・瀬戸康史)に対して〈ここからは修羅の道だ〉と言い放ちます。
A:まるでやくざ映画のような台詞です。実際にやくざ顔負けの闘争劇が繰り広げられていますから、さもありなんですが、これでは北条組の総長じゃないですか。義時はまさに修羅道に入り込んでしまったわけです。
I:劇中、源仲章(演・生田斗真)は義時に対して〈主殺しはもっとも重い罪〉と迫っていました。
A:主殺し、親殺しがもっとも重い罪、というのは現代のやくざ社会にも引き継がれています。ますますやくざ映画顔負けの展開になってきました。
I:義時は、いずれは鎌倉を離れて京都に御所を移したいと語った実朝に怒りがおさまらないという体でした。私は、実朝にそういう思いを抱かせた張本人が義時だと感じています。それだけに義時の言に納得いかないのです。
A:この先、何がどうなるのか、あらすじを知っていながら、これだけスリリングな展開になるのですから、すごいですよね。「三浦の謀反」に気がついたのも、「嘘をつくと襟を触る」という長年の付き合いがなければ気が付かないしぐさがきっかけでした。
I:些細なことがきっかけで事が露見することはよくあります。このシーンにドキンとした人は多いのではないでしょうか。
A:……。さて、義時は政子に対して〈もし私に罪があるのだとすれば、あなたも同罪です〉と政子に引導を渡します。
I:頼朝の死の直後、「共闘」を誓った姉弟が、今は「共犯」。義時にしてみれば政子も共犯だということにしておきたいのでしょうが、義時の「やくざ感」がいっそう高まりました。
A:そして最後のナレーションが印象的でした。〈粉雪は戌の刻を過ぎたあたりからぼたん雪になっている〉――。雪国に住んでいる人なら情景が浮かぶと思いますが、ざっくりいうと気温が少しあがったということでしょうか。
I:いよいよ、その時が近づいてきました。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり