この謎場面にはどんな思いが込められているのか?
I:前週の予告で「オンベレブンビンバー」というフレーズが出てきたものですから、皆さん、「いったい、どんな意味なの?」と検索された方も多かったようです。結果、見事に作者や制作陣に一本取られた形になりました(笑)。
A:時政と義時の間が緊迫し、北条氏が分裂含みの展開になる中で、こんなシーン必要? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、箸休め的なこんなシーンがなければ、ほんとうに救いようのない暗すぎる流れになってしまったと思われますのでいいのではないでしょうか。
I:時政は、「オンベレブンビンバー」が、大姫(演・南沙良)が「唱えるといいことがある」と言っていたまじないと説明し、皆が、どんなまじないだったか思い出していく。物語前半の「明るい北条ファミリー」の姿を思い出してしまうという展開でした。
A:「ウンタラボンダラゲー」とか「ピンタラポンチンガー、プルッププルップ」とか、北条の人たちは、本当に適当だな! と感じました(笑)。ついに実衣が〈ああ全成殿がいてくれたら〉と全成(演・新納慎也)の名前まで登場するし。大山鳴動して、最終的に「ボンタラクーソワカー」と皆で大合唱しますが、正解は「オンタラクーソワカー」という落ちでした(笑)。伊豆の豪族のままだったら、ずっとこんな感じで明るく過ごせていたかもしれないと思うと切ないですね。
I:なまじ権力に近づいたばっかりに……。ちなみに大姫がこのまじないに触れたのは第21回。八重さん(演・新垣結衣)が水難に見舞われた回で、前週も指摘しましたが、北条の一族が集った回でもあります。
A:やっぱりその回かぁ、と思って、オンデマンドで第21回を見直しました(笑)。確かに大姫は時政に対して唱えるといいことがありますよと〈オンタラクーソワカ〉と唱えることを勧めています。実衣が全成に〈いまのは何?〉と質問して、全成が〈如意宝珠、縁起の良い呪文じゃ〉と答えていました。
御仏は、ずっと見守っていた?
I:私が震撼したのは、この第21回の副題が「仏の眼差し」だったということ。運慶(演・相島一之)に依頼していた願成就院の仏像が完成したことを受けてのものだと思っていましたが、第36回、第37回と第21回の北条一族の場面を引き寄せられる展開が続いたことで、御仏の眼差しは、ずっと北条一族や時政のことを見続けていたというふうに感じています。
A:「お天道様は見ている」にも通じる仏教説話のような流れになってきましたね。
I:でも「オンベレブンビンバー」というフレーズを必死で検索した方々はお気の毒な感じですね。
A:そういうのを含めた「大河ドラマ=壮大なるエンターテインメント」と考えると、これはこれでほんとうに面白かったです。その一方で、今後の尺の問題を考えると「この場面ほんとうに必要でした?」とも思っちゃいます(笑)。尺の問題でいえば、もう、この際はっきりいってしまいますが、やはりこの物語は、宝治合戦まで描かなければ、おさまりがつかないのではないか、と最近思い始めています。
I:宝治合戦!? それは大胆な発言ですね。本作で北条義時とつかず離れず、うまく立ち回っている相模の大豪族の末路を見届けたいということですね? でもただでさえ、尺が不足している印象の中で、宝治合戦はさすがにムリ筋では?
А:もちろんムリは百も承知です。しかし、かつて2004年の大河ドラマ『新撰組!』では、本編終了から1年以上経過した2006年正月時代劇として、『新選組!!土方歳三 最期の一日』が放送されました。
I:なんと、作者だけではなくて、土方歳三と大豪族当主がかぶっていますね。これは奇縁。
A:なんだか実現するかも、と思ってしまいますよね? もちろん宝治合戦は、相模の大豪族当主の息子たちの事件になりますし、北条氏に至っては、義時のひ孫の代になっているわけですが。
I:文字通り、大河って感じになりますね。実現したらいいですね。さて、物語は後段に入って〈執権北条時政謀反。これより討ち取る〉という台詞が登場しました。〈命だけは助けてあげて〉という政子の声が虚しく響きます。
A:時政とりく、どうなってしまうのでしょう。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり