思い込みの激しい義時のアキレス腱
A:今週も気になる台詞がありました。政子に対して義時が言い放った〈政を正しく導くことが出来ぬ者が上に立つ。あってはならぬことです。その時は、誰かが正さねばなりません〉です。確かに正論には違いないのですが、義時が言うか、という感がしないでもないですし、この台詞が義時にブーメランになって跳ね返って来ないか心配です。
I:まさか、義時三番目の女性がっていうんじゃないですよね。そこを心配するのは時期尚早です! ただ、義時は「女性はきのこが好き」と信じ切っている場面が三度描かれました。一度思い込んだら視界が狭くなるタイプなんだと思います。だとしたら、「鎌倉のため」が実は「北条のため」であることにも気が付かずに、突き進んでしまっているのではないでしょうか。
A:「女性はきのこが好き」の発想が本編につながってくるとは!
電光石火、父時政追放に動いた義時
A:畠山重忠を討った後に、即座に義時は時政追放の動きを見せます。〈少々度が過ぎたようにございます〉〈小四郎、わしをはめたな〉というやり取りが交わされました。義時は最初から時政追放を仕組んでいたかのような印象です。
I:でも、義時は、実衣(演・宮澤エマ)に対して〈謀反の証拠はどこにもございません〉とか時政に〈次郎ははっきり言いました。鎌倉へ入るのは弁明するため。戦うためではないと〉などと言っていましたし、泰時(演・坂口健太郎)や時房(演・瀬戸康史)らに〈まずいぞ。これではだまし討ちだ。なんとかしなければ〉とも言っていました。
A:それがすべて、義時の計算のうちだったとしたら?
I:え? 劇中の身内だけではなく、私たち視聴者も含めて義時に騙されていたということですか?
A:後段で稲毛重成の死を〈なぜ止めなかったのですか〉と政子に問われた義時が〈私がそうするようにお勧めしたからです〉〈すべて頼朝さまから教えていただいたことです〉と語っているのを見て、そう思いました。やはり義時は、畠山と時政を同時に失脚させるためにいろいろ仕組んだのではないでしょうか。
I:なんという恐ろしい展開でしょう。
A:前半の第21話に北条一族が総出になる場面がありました。「当欄21」の該当部分を引用します。 (【鎌倉殿の13人 満喫リポート】21 https://serai.jp/hobby/1075619)
A:さらに今週は、りく(演・宮沢りえ)に男子が誕生した様子が描かれ、その流れで時政の娘で畠山重忠(演・中川大志)に嫁いだちえ(演・福田愛依)が身ごもったという報告があった場面が特別印象に残りました。
I:喜びの中に、「やがて来る悲しみの種がまかれる」という胸に迫りくるシーンでしたよね。この後の歴史を知っている人にも、あまり詳しくない人にも、今後見続けることで印象に残るシーンとして設定された感があります。
A:時政、りく、全成、大姫、畠山重忠、そして稲毛重成(演・村上誠基)、さらには、生まれたばかりの時政の息子に畠山重忠の身ごもったばかりの子供……。 満面の笑みの中にいる彼らの今後の運命を思うと、あまりに切ない……。
I:1年間見終わって、このシーンを見直したら号泣してしまうかもしれませんね。
A:権力を目の前にして皆、人が変わったように悪辣になりました。時政や義時だけではなく、夫の全成亡き後の実衣にも凄味を感じます。なんか自分たちで言っておいてあれですが、21話を振り返るとほんとうに切ないですね。
I:「権力」ってほんとうに魔物ですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり