I:そんな中で上洛したばかりの政範が京都で急死します。『吾妻鏡』にも触れられていますが、時政とりくはそうとう悲嘆にくれたようです。

A:時系列で整理すると、頼家が惨殺されたのが元久元年7月18日。北条政範が京都で客死したのが11月5日。わずか4か月しか経っていません。なにやら得体のしれない闇があったのではないかとぞわぞわします。

I:命(たま)をとられたら、とりかえすというやくざ映画のような場面が続きますね。

A:そんなこんなの不穏な状況の中で、時政と義時(演・小栗旬)がやり合います。義時は、付け届けの有無で訴訟を左右してはいけないと時政をたしなめました。闇落ちしたような印象だった義時ですから、〈父上、われらに分け前がないとは何事ですか?〉くらい言ってくるかと思いましたが、まだ良心が残っていたんですね。

付け届けがある者の訴えはきく、という時政の姿勢に苦言を呈する息子の義時。(C)NHK

義時に持ち込まれた縁談

I:八重(演・新垣結衣)と死別し、比奈(演・堀田真由)とも離縁するに至った義時ですが、今度は二階堂行政(演・野仲イサオ)が〈孫娘をもらってくれ〉と自薦してきました(笑)。

A:その孫娘のえ(演・菊地凛子)のことに触れる前に、ちょっと脱線します。義時に孫娘を薦めた二階堂ですが、鎌倉時代を通じて要職を世襲し、子孫は全国に散らばります。そのうちの一流が薩摩の大隅半島に所領を持ち、田中角栄側近として知られる二階堂進を出します。鹿児島県の肝付町には文化年間(1810年代)建築の「二階堂家住宅」があります。10数年前に評論家の八幡和郎さんと「二階堂進の墓参りをしよう」とお誘いを受けご一緒したことがあります。

I:同じ肝付町には日本最南端の前方後円墳(塚崎古墳群)もあるのですよね。あ、脱線しすぎました。さて、のえですが、義時からきのこを贈られて喜ぶシーンがありました。「女性はきのこが好き」と思い込む「義時の謎設定」が再び登場しました(笑)。義時が八重にきのこを贈った時は〈ありがたくいただきます〉といいながら、表情は微妙でした(第10話)。義時の勧めで泰時(演・坂口健太郎)が初(演・福地桃子)にきのこを贈った際は、受け取ってもらえませんでした(第29話)。ところが、のえは、満面の笑みを義時にふりまいて喜んでいました。

A:この段は「人間ドラマ」として見てしまいました。義時からきのこをもらったのえは、〈きのこ大好きなんです! ありがとうございます〉と笑みをたたえて、別れ際にも〈では!〉ときのこを掲げてにっこりと微笑むのです。

I:このシーンだけなら、好感のもてる女性という印象ですが、後段、きのこを侍女に横流ししようとし、〈どうぞどうぞ、私嫌いだから〉とのたまいました。しかもだらしない格好で〈もう御所の女房はおしまい。控えよ、控えよ〉ですよ。「ああ、こういう人はいつの時代にもいるんですね」というのが正直な感想です。

A:衝撃的な場面でした。義時の先行きが不安になります。ほんとうに心配になります。のえさんというのは悪女設定なのでしょうか。こういう面従腹背というか、態度は従順でも心の中ではアカンベーとか。それを見抜くことができるかどうかで人間力が試されるという場面になりました。

I:ほんとうに信頼できる側近は誰か? ということにもつながりますね。私はそれを突き詰めたところに衆道があったのではないかと思ったりします。

A:衆道? なるほど。すべてをさらけ出した関係になって初めて信頼関係が築かれるということですね。義時とのえの話からは外れますが、ふたりの今後の関係も要注目ですね。

裏表のあるのえの今後に注目。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。

●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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