「言葉の天才」と呼ばれた永六輔さん。その「言葉」によって、仕事や人生が激変した著名人は数知れない。永さんと長く親交があったさだまさしさんと孫・永 拓実さんが、「人生の今、この瞬間を有意義に生きるヒント」をまとめた文庫『永六輔 大遺言』から、今を生きるヒントになる言葉をご紹介します。
文/永拓実
見かけや姿は老いても、絶対に老いないものがある
2年前、僕が18歳のときの経験です。受験を直前に控え、家にこもって毎日猛勉強していました。朝8時から夜10時まで、身体的には苦しくても、充実感がありました。ところが祖父の代表的な著作である『大往生』を読んだときから、精神的にも迷いが生じるようになりました。
〈人間、今が一番若いんだよ〉
この言葉を読んで、考えさせられました。
高校生活最後の一年を、これほど受験勉強に費やし、将来後悔しないだろうか。自分はすごく惜しいことをしているのではないか。
10代後半は大切な青春の時期。なのに僕は一人で机に向かっている。「若いうちに楽しんでおきな」「今しかできないことがあるよ」。そんな声が聞こえてきそうでした。
しかし、そんなことをしていたら、受験という当時の僕にとって一番大きな目標が、達成できないかもしれない。この迷いから僕を救ったのは、これまた祖父の言葉でした。
救われたといっても、何か言われたわけではありません。ただ、祖父が持ち歩いている手帳を覗き見ただけです。
原稿執筆、芝居の鑑賞、取材、イベント出席、新幹線で移動しながら取材、帰りに原稿をもう一つ。毎日10個近くもの予定が詰め込まれていました。その脇には、その日考えたこと、ネタになりそうな事柄がびっしりと書き留めてある。
60歳年下の僕よりずっと若々しく、好奇心を持っている祖父の姿を垣間見たとき、開き直ることができました。80 代になっても、こんなにいろいろな仕事に挑戦でき、楽しめる可能性があるのだから、若いうちに苦労しておいても損はないかもしれない。
祖父はこんな言葉も遺しています。
“人生、明るく生きるはまだ何歳。暗く生きるはもう何歳”
“『老兵は死なずただ消え去るのみ』っていうけどさ、消えてたまるかっ、て思う。見かけとか姿とかは老いていきますけどね、絶対に老いないものもある”
僕は勘違いしていました。「若い」というのは「年齢が低い」という意味ではない。年齢と関係なく、若々しく生きること。それが祖父の言う「若い」でした。
そう理解したうえで「今が一番若いんだよ」という言葉を読むと、「いつまでも若々しくいればいいんだから、年齢なんて気にするな」と言っているように聞こえます。
永六輔の今を生きる言葉
人間は今が一番若い
明るく生きるには「まだ何歳」と考えよう
* * *
『永六輔 大遺言』(さだまさし、永拓実 著)
小学館
さだまさし
長崎県長崎市生まれ。1972年にフォークデュオ「グレープ」を結成し、1973年デビュー。1976年ソロデビュー。「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒットを生み出す。2001年、小説『精霊流し』を発表。以降も『解夏』『眉山』『かすてぃら』『風に立つライオン』『ちゃんぽん食べたかっ!』などを執筆し、多くがベストセラーとなり、映像化されている。2015年、「風に立つライオン基金」を設立し、被災地支援事業などを行なう。
永拓実(えい・たくみ)
1996年、東京都生まれ。祖父・永六輔の影響で創作や執筆活動に興味を持つようになる。東京大学在学中に、亡き祖父の足跡を一年掛けて辿り、『大遺言』を執筆。現在はクリエイターエージェント会社に勤務し、小説やマンガの編集・制作を担当している。国内外を一人旅するなどして地域文化に触れ、2016年、インドでの異文化体験をまとめた作品がJTB交流文化賞最優秀賞を受賞。母は元フジテレビアナウンサーの永麻理。