日本には、宗教法人に登録されているだけで約16万もの神社仏閣が存在する。なぜこれほどまで多く存在するのか? それは、日本が四方を海に囲まれ、国土の7割以上が山地という地理と地形が大きな要因の一つである。

国内の神社仏閣のルーツや成り立ちの秘密を、「地形」や「地理」の観点から解説する書籍『カラー版 地形と地理でわかる神社仏閣の謎』から、富士山本宮浅間大社のなぞを紹介する。

文/古川 順弘 、青木 康

縄文時代から続く富士山の信仰

富士山本宮浅間(ふじさんほんぐうせんげん)大社の社伝によると、7代孝霊(こうれい)天皇の時代に富士山が大噴火し、住民が離散して荒れ果てたため、富士山の鳴動を抑えるために、11代垂仁(すいにん)天皇の時代に、浅間大神を祀り、富士山の神霊を鎮めたのが起源とされる。その後は祭神の神徳をもって平穏な日々が訪れたという。

標高3776メートルの富士山は、日本最高峰というだけでなく、その美しい姿から古代から人々の信仰の対象となってきた。その信仰は縄文時代中期までさかのぼり、千居(せんご)遺跡(静岡県富士宮市)や牛石(うしいし)遺跡(山梨県都留市)の配石遺構は富士山を遙拝(ようはい)(遠くから拝礼すること)するようにつくられている。

出典:『カラー版 地形と地理でわかる神社仏閣の謎』 宝島社新書

もともと遥拝の対象だった富士山で登拝(とはい)(宗教行為としての登山)が行われるようになったのは平安時代後期とされ、修験道の開祖・役行者が開山したと伝えられる。また『聖徳太子絵伝(しょうとくたいしえでん)』には聖徳太子が黒い馬に乗って登拝した記述がある。これらは伝説の域を出ないが、登拝の確かな記録としては、『本朝世紀(ほんちょうせいき) 』に末代(まつだい)上人が富士山に数百回登頂し、久安(きゅうあん)5年(1149)に山頂に大日寺を建立したことが記録されている。

15世紀になると、修験者は全国を回り、富士登拝を勧めるようになり、全国の人々が修験者に導かれて富士登拝を行うようになった。これがのちに体系化され、富士講(富士山へ登拝する各地の組織)へ発展した。江戸時代にはこの富士講が流行し、江戸八百八町すべてに講がつくられた。

山ではその道程を10に分けて「〇合目」と呼ぶが、これは山岳登拝を人間が仏へと至る十の段階(地獄、餓鬼(がき) 、畜生(ちくしょう)、修羅(しゅら)、人、天、声聞(しょうもん)、縁覚(えんがく)、菩薩、仏)に当てはめたものとされる。また火口を周回することをお鉢巡りと呼ぶが、これは富士山頂にある8つの峰と中央の火口の様子が、仏の世界を表す「八葉九尊」に見立てられたことから、お八(鉢)巡りというようになった。

富士山の登山道に鎮座する浅間神社

富士山の8合目から上は静岡県富士宮市に鎮座する富士山本宮浅間大社の境内地である。同社は全国にある浅間神社の総本社だ。富士山の周囲にはいくつもの浅間神社が点在しているが、これらは富士山頂へと続く登山道の起点や通り道に位置している。山梨県側の吉田口登山道ならば北口本宮冨士浅間神社、吉田ルートならば冨士御室浅間神社、
須走ルートならば須走(すばしり)浅間神社、御殿場ルートならば須山浅間神社がそれぞれ鎮座している。富士山本宮浅間大社が起点となっているのが富士宮ルートだ。ルート上にある山宮浅間神社は富士山本宮浅間大社の旧鎮座地である。なお村山浅間神社は最古の登山道ともいわれる村山古道にあり、富士宮ルートにつながる。

現在最も人気なのは吉田ルートで、登りの所要時間は約6時間である。次に人気なのが富士宮ルートで登りの所要時間は約5.5時間と少し短い。いずれも初心者でも登山がしやすいルートである。吉田ルートにある御室浅間神社は、文武(もんむ)天皇3年(699)に富士山2合目に浅間大神を祀ったのがはじまりと伝えられ、それまでの浅間神社が遥拝地に創建されていたのに対して、山中に鎮座した最古の神社とされる。本宮はその後、河口湖畔の里宮に遷された。吉田ルートと富士宮ルートの起点部分には縄文遺跡が点在している。ちなみに富士山の登拝路を開いた末代上人が登ったのも富士宮ルートである。

平安時代には西国の人々が、江戸時代以降は江戸の人々が富士宮ルートを使って登拝を行った。富士山本宮浅間大社は、浅間神社の総本社としてだけでなく、主要登山道の起点だったことから厚く信仰されたのである。

* * *

『カラー版 地形と地理でわかる神社仏閣の謎』(古川 順弘 、青木 康 著)
宝島社新書

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古川 順弘(ふるかわ・のぶひろ)
神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。宗教・歴史分野をメインとする編集者・文筆家。著書に『古代豪族の興亡に秘められたヤマト王権の謎』(宝島社新書)、『仏像破壊の日本史』(宝島社新書)、『神社に秘められた日本史の謎』(新谷尚紀監修、宝島社新書)、『人物でわかる日本書紀』(山川出版社)、『古代神宝の謎』(二見書房)、『物語と挿絵で楽しむ聖書』(ナツメ社)、『古事記と王権の呪術』(コスモス・ライブラリー)などがある。

青木 康(あおき・やすし)
埼玉県生まれ。学習院大学法学部卒業。神社専門編集プロダクション・杜出版株式会社代表取締役。全国の神社を巡り、地域ごとに特色ある神社の信仰や歴史学の観点から神社を研究・執筆活動を行う。主な編書に『完全保存版!伊勢神宮のすべて』『歴史と起源を完全解説 日本の神様』『カラー版 日本の神様 100選』『日本の神社 100選 一度は訪れたい古代史の舞台ガイド』(いずれも宝島社)などがある。

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