義経を祀る白旗神社(神奈川県藤沢市)にある源義経と武蔵坊弁慶の像。

菅田将暉演じる源義経が登場した『鎌倉殿の13人』。かつて歴史ファンを虜にし、全盛期には10万部を超える発行部数を誇った『歴史読本』(2015年休刊)の元編集者で、歴史書籍編集プロダクション「三猿舎」代表を務める安田清人氏が、義経について解き明かす。

* * *

『鎌倉殿の13人』では、物語前半でとてつもなく大きな役割を果たし、やがて風のように去って行くであろう、源義経(演・菅田将暉)がその相貌を見せ始めた。

義経という人は、非常に人気がある一方、非常に分かりづらい人物でもある。これまで、NHK大河ドラマでは第4作『源義経』(1966年)と第44作『義経』(2005年)で主人公となった。前者では歌舞伎界の貴公子と呼ばれた尾上菊之助(現・尾上菊五郎)が義経を演じ、後者ではジャニーズのアイドル、タッキーこと滝沢秀明が主演を務めた。

それ以外にも、平清盛が主人公の第10作『新・平家物語』(1972年)では、義経は志垣太郎。源頼朝と政子夫婦が主人公の第17作『草燃える』(1977年)では国広富之が義経を演じた。そして第50作『平清盛』(2012年)の義経が神木隆之介だったのは、まだ記憶に新しいところだろうか。

これらの作品で描かれる義経の特徴は、おおむね次のようにまとめられると思う。

1 純粋無垢でやや直情径行
2 戦となると天才的な能力を発揮する
3 勝利のためにセオリーを無視する独創性がある
4 美青年(?)

このうちの「4 美青年」は、後世に物語として描かれる際に、父の仇である平家を打ち滅ぼしながら、敬愛してやまない兄頼朝に疎まれて最期は命を奪われるという「悲劇性」を際立たせる演出として作られたイメージだろう。つまりそれが事実であるかどうかは問題ではない。

ちなみに、歴史研究者の間では、こうした義経のイメージは室町時代の軍記物『義経記』によって定着したものとされている。もっと義経の時代に近い『平家物語』では、義経は「色白で背が低く、前歯が飛び出している」という、美青年とは似ても似つかぬ描写のされ方をしている。これは平氏方の越中盛嗣という武士が、壇ノ浦の決戦を前にして味方の武将たちに義経の容貌を説明するくだりなので、もしかすると敵の大将をディスっているだけかもしれないが、美少年だったという記述もないので、真相はわからない。

『鎌倉殿の13人』に登場した義経(演・菅田将暉)は、まだはっきりとは描いていないものの、1、2、3の特徴を予感させる巧妙な描写が印象的だった。

「獲物を争うを、弓矢の技量で勝負すると見せかけて殺してしまう」
「里芋の煮物が箸で取りづらいとみるや、さっさと突き刺して食べてしまう」
「兄(頼朝)に加勢するためにやってきたのに富士が見たい、海が見たいと自由気まま」

のちの一ノ谷の逆落としや、屋島の戦いでの電光石火の襲撃、壇ノ浦での敵の水夫殺害という禁じ手など、史実かどうかはともかくとして、義経伝説として伝わっているさまざまな「見せ場」を予感させる伏線的なシーンだった。

このあたりは、「義経ストーリー」を十分に消化・知悉しているであろう自称「歴史オタク」の三谷幸喜氏ならではテクニックだ。歴史好きは膝を打つ。「そうそう、義経ってこういう感じだよ」と。

しかし、菅田将暉の義経は、歴史好きの想像のやや上をいっていたように思う。子どものように純粋であると同時に、子どもが平気でアリを踏み潰し、トンボの羽を引きちぎるような残忍さも垣間見えた。それはグロテスクなまでにリアルだった。義経の強さ、美しさ、カッコよさを、その奥にある残忍さとセットで描くのは、歴史上の人物を「きれいごと」で描くことを拒否する三谷氏の誠実さの表れだとも思えた。

義経はドラマの中で6~7人くらいの郎党を引き連れていて、そのなかに誰もが一目でわかる武蔵坊弁慶(演・佳久創)もいた。郎党たちは、義経に「御曹司」と呼びかけている。この「御曹司」とは、まだ成人していない「貴人の息子」を敬っていう呼び名だ。義経の父親は、平治の乱で命を落とした源義朝だから、これは当然「義朝様の御曹司」という意味だろう。

しかし、この時代の代表的な研究者である上横手雅敬氏、元木泰雄というふたりの京都大学名誉教授が指摘するように、治承4年(1180)、義経は黄瀬川宿で頼朝との感動の対面を果たした際に、頼朝の猶子となっている。猶子とは、家督や財産の相続・継承をしない(場合もある)、やや緩やかな養子関係といったところか。

いずれにせよ、頼朝と政子の間に長男の頼家はまだ誕生していない。頼家が生まれるのはふたりの対面から約1年半後の寿永元年(1182)のこと。義経は、いまだ嫡男を持たない頼朝の猶子=後継者として遇されたのだ。つまり義経は「頼朝の御曹司」だったということになる。

もしそうだとすると、『史伝 北条義時』で著者の山本みなみ氏が指摘するように、義経の登場と鎌倉方への参加は、政子や北条一族にとっては、大きなプレッシャーとなったことだろう。政子が男子をもうけなければ、義経が頼朝の後継者として確定する。頼朝の妻政子はもちろん、政子の実家である北条氏の発言力や影響力が著しく減じてしまうのは必至だ。

やがて、義経と頼朝の対面もドラマのなかで描かれるだろう。その時、北条時政(演・坂東彌十郎)・義時(演・小栗旬)父子は感動の面持ちでふたりを見つめるのだろうか。それとも、後継者争いのライバル出現に、苦い思いをかみしめるのだろうか。

【参考文献】
元木泰雄『源 義経』(吉川弘文館)
上横手雅敬『源平の盛衰』(講談社学術文庫)
菱沼一憲『源義経の合戦と戦略』(角川書店)
山本みなみ『史伝 北条義時』(小学館)

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安田清人/1968年、福島県生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊『歴史読本』(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集・執筆・監修などを手掛けている。 北条義時研究の第一人者山本みなみさんの『史伝 北条義時』(小学館刊)をプロデュース。

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