頼朝と義経兄弟が対面の際に座したと伝えられる黄瀬川の対面石(静岡県沼津市)。

『鎌倉殿の13人』では、阿野全成(演・新納慎也)と源義経(演・菅田将暉)という、源頼朝(演・大泉洋)の弟たちが登場した。第10話では、もうひとりの弟である範頼(演・迫田孝也)や義円(演・成河)も登場して、弟4人は頼朝政権の樹立において大きな役割を果たすことになる。その頼朝の兄弟について、かつて歴史ファンを虜にし、全盛期には10万部を超える発行部数を誇った『歴史読本』(2015年休刊)の元編集者で、歴史書籍編集プロダクション「三猿舎」代表を務める安田清人氏がリポートする。

* * *

『鎌倉殿の13人』の序盤は、随所に笑いの要素をちりばめたコメディタッチの物語が展開しているが、やがて兄弟が相争い命を奪う、凄惨な場面が続々と出てくるのだ。

義円(演・成河)は平家との戦いで命を落とし、義経(演・菅田将暉)と範頼(演・迫田孝也)は兄頼朝(演・大泉洋)によって討たれ、全成(演・新納慎也)も頼朝死後、有力御家人同士のヘゲモニー争いに巻き込まれ、謀反の疑いで処刑されてしまう。

ということで、ここでは頼朝の兄弟について、改めておさらいしておきたい。

この兄弟の父親は、河内源氏の棟梁とされる源義朝だ。義朝は平治元年(1159)に後白河上皇の近臣藤原信頼と組んでクーデターを起こすが、平清盛に敗れて逃亡中に殺害された(平治の乱)。

長男は源義平。三浦義明(義澄の父)の娘との間に生まれた義平は、平治の乱に参陣。敗北によりいったんは逃亡を図るが、父義朝の死を知り、京都に戻って清盛暗殺を謀る。しかし、あえなく捕縛されて処刑されてしまう。

二男の源朝長。義朝と波多野義通の間に生まれた朝長は、平治の乱に敗れて逃亡中に病気になり、自害してしまった。

三男が嫡男の頼朝で、母は熱田大宮司藤原季範の娘だ。平治の乱に敗れた父とともに逃亡するが、途中ではぐれて捕縛されてしまう。池禅尼の助命嘆願によって一命を救われ、伊豆に流された。

四男の義門は、早世している。

五男の源希義(まれよし)は、頼朝と同じ母から生まれた。平治の乱のときはまだ幼く、戦いには参加していなかったが、頼朝と同じく捕縛されて土佐に流された。後に兄頼朝が伊豆で挙兵した際、これに参加するのではないかと疑われ殺害されてしまう。

六男は源範頼。母は遠江国池田宿の遊女とされている。平治の乱の際、平家方は範頼の存在を知らなかったようで、範頼はそのまま遠江国蒲御厨(かばのみくりや)で育ち、藤原範季の保護を受けたとされる。

頼朝の挙兵を受けて参加するが、遠江に進出した甲斐源氏の安田義定とも関係があったといわれ、当初は甲斐源氏とともに行動したとも考えられている。頼朝方に合流後は、その名代として平家追討に活躍。奥州藤原氏攻めにも出陣するが、最期は頼朝に謀反を疑われ、伊豆に幽閉されたのち殺害されたとされている。

頼朝の弟たちの運命

七男の今若(阿野全成)、八男の乙若(義円)、そして九男の牛若(源義経)の三兄弟は、九条院(藤原呈子)に仕える雑仕女(召使)の常盤御前を母とする。この三兄弟は、父義朝の死後、母が公家の一条長成と再婚したため、その庇護を受けたのち、今若は京都の醍醐寺に、乙若は近江園城寺、牛若は洛北の鞍馬寺に入った。

今若こと阿野全成と牛若こと義経のその後については、すでに簡単に触れた。乙若こと義円は、頼朝の挙兵を受けて園城寺を脱出したが、頼朝とは合流せず、叔父の源(新宮)行家とともに美濃・尾張の国境を流れる墨俣川で平氏軍と戦い、討ち死にしたという。

9人の男子の生涯をあらためて観望すると、早世した四男(義門)と嫡男の頼朝を除く7人が非業の死を遂げていることに改めて驚かされる。曲がりなりにも天寿を全うしたのは、頼朝ただひとり。いかに戦乱の時代に生をうけたとはいえ、まるで呪われた兄弟ではないか。

『鎌倉殿の13人』の物語展開に重ねると、長男、二男、四男、五男はすでにこの世にはいない。これから物語が進むにつれ、兄弟の残り4人も順に非業の死を遂げて行くことになる。なんとも救いようがないが、これは史実なのでどうしようもない。せめて、その死がスルーされず、印象的な場面となることを望むばかりだ。

【参考文献】
野口実『武門源氏の血脈』(中央公論新社)
元木泰雄『源義経』(吉川弘文館)
細川重男『頼朝の武士団』(朝日新書)

安田清人/1968年、福島県生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊『歴史読本』(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集・執筆・監修などを手掛けている。 北条義時研究の第一人者山本みなみさんの『史伝 北条義時』(小学館刊)をプロデュース。

 

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