二十四節気の「春分」の日を迎えると、いよいよ本格的な春の到来です。七十二候の「桜始開(さくらはじめてひらく)」の時期とも重なります。この頃になると、全国各地から桜開花の便りが聞こえてくるもの。2023年の春は、新型コロナウイルス感染症による行動制限も緩和されます。皆さんは今年の桜をどのような場所で楽しもうか、もう決めていますか? 桜を通して、春のおとずれを肌で感じられたいという方も多いかもしれませんね。
古来より日本人は二十四節気を定め、季節を区分してきました。一年を24に分けることで、月日の移ろいを感じ取ってきたのです。自然に触れる機会が減り、季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか。
さて今回は、旧暦の第4番目の節気「春分」について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
目次
春分とは?
春分の行事と過ごし方は?
春分に旬を迎える食べ物
春分の季節の花
春分の日と秋分の日の違いとは?
まとめ
春分とは?
太陽の中心が春分点上に来たとき、太陽は真東から昇り真西に沈みます。この昼と夜の長さがほぼ等しくなる日が「春分の日」となり、二十四節気の「春分」の期間が始まります。
春分は二十四節気において、4番目の節気にあたり、寒さが和らぎ春のおとずれを感じられる時期。眠りから覚めた虫や動物たちが動きだし、植物が芽吹くよろこびに満ちた季節です。
二十四節気は毎年日付が異なりますが、春分は例年3月21日〜4月4日になります。2023年の春分は、3月21日(火)です。期間としては、次の二十四節気の「清明」を迎える、4月5日頃までが該当します。2023年は、3月21日(火)〜4月4日(火)が春分の期間です。
春分の行事と過ごし方は?
春分の時期には、「花見」が行なわれます。古代・中世において、花見は貴族や武家の間でのみ行なわれていたものでした。その中でも、豊臣秀吉の醍醐や吉野山での花見は数寄を凝らした衣装や歌舞などの芸事を含め、華美なことで有名です。この秀吉の花見が、江戸時代の庶民の派手な花見のさきがけになったと言われています。
春分に旬を迎える食べ物
ここからは、春分の時期に旬を迎える和菓子、野菜、魚をご紹介します。
和菓子
花見はそこそこに「花より団子」となる人は昔から多かったようです。1532年頃には「花よりもだんごとたれか岩つつじ」(『俳諧・新撰犬筑波集』より)という歌が詠まれています。花見菓子の定番といえば、桜餅。下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久さんに、詳しいお話をお聞きしました。
「当店(茶寮宝泉)では春分の時期になりますと、生菓子『桜餅』を提供いたします。和菓子は京都発祥のものが多いですが、桜餅は東京発祥です。享保2年(1717)向島の長命寺境内で、山本新六が墓参りの人を手製の桜餅でもてなしました。それが桜餅の始まりだと言われています。
桜餅は、関東と関西で作り方が異なります。関東では餡を小麦粉の生地でクレープ状に巻いた「長命寺」、関西では道明寺粉の生地で餡を包んだ「道明寺」が主流です。当店では、鉄板で小麦粉の生地を薄く焼いて餡を包み、塩漬けにした桜の若葉でくるんだ関東風の桜餅を提供しております。
江戸時代、桜餅は『葉の香気が餅に移る様は品がいい』と人気を博しました。それは今も同じです。桜を愛でながら、春の味わいをお楽しみください」と古田さん。
野菜
春分に旬を迎える野菜は、新玉葱(しんたまねぎ)です。玉葱の歴史は古代エジプトまで遡り、日本に入ってきたのは明治からだといいます。春先から出回る新玉葱は瑞々しくて甘く、辛みも少ないので生食向きです。ポリフェノールを多く含むので、血液をサラサラにする効能があります。
魚
春分の頃に美味しい魚は、桜鯛です。春の産卵の頃、雄の鯛は腹部が鮮紅色を呈します。ちょうど桜の花が咲く頃なので、その美しい色を賞して「桜鯛」と呼ぶのです。また、花見の時期でもあるので、「花見鯛」と呼ばれることも。白身はふくよかで味もよく、まさに海の魚の王です。
食べ方は、グリルやカルパッチョ、マリネなど様々。中でもやはり、刺身にするのが一番美味しいと言われています。
春分の季節の花
長い冬が終わり、だんだんと日差しが暖かくなってくると、それまで寂しかった庭や公園の花壇にもぽつりぽつりと可憐な花が咲くのが見られます。春分の時期に咲く花は、ソメイヨシノやタンポポ、菜の花、木蓮など。見ていて気持ちが和らぐ花が多いですね。
菜の花は田んぼの畦道や川沿いに咲く他にも、真っ黄色の菜の花畑となり見る人の目を楽しませてくれます。江戸時代の俳人与謝蕪村は「菜の花や月は東に日は西に」という日本の情景の美しさを歌った句を残しています。菜の花は愛でるだけでなく、おひたしにして春野菜特有の苦味を味わうこともおすすめです。
春分の日と秋分の日の違いとは?
「春分・秋分」はお彼岸ですので(仏教行事の「彼岸会」より)、この日はご先祖様の御魂(御霊)を慰める意味がある日となりました。
宮中においては、明治時代に入るまで、歴代の天皇の御魂(御霊)は、命日に陵墓にてお祭りがなされましたが、次第に清涼殿の御黒戸(おくろど、いわゆる仏間)に、霊牌が安置されるようになり礼拝されていました。
しかし、明治元年(1872)の神仏分離令にて、この慣習が終わります。翌年、復興された神祇官により京都の御所から東京の皇居に「八神・天神地祇」と「歴代天皇の皇霊」が遷座され、「八神」と「天神地祇」は合祀されて「神殿」に祀られました。三種の神器の一つである「鏡(八咫鏡)」をお祀りする「賢所」。そして、歴代の天皇の皇霊を祀る「皇霊殿」が創られました。いわゆる「宮中三殿」のことです。
この歴代の天皇の御魂を祀る皇霊殿に、皇后・皇妃なども祀られるようになり、明治11年(1878)の秋分の日に、秋季皇霊祭が執り行われ、翌年の春分の日に春季皇霊祭が斎行されました。
そして、明治41年(1908)の「皇室祭祀令」により、春分の日・秋分の日に皇霊殿にて執り行う「大祭」となったのです。この日は、明治11年(1878)から昭和22年(1947)まで祝祭日に定められました。
昭和22年(1947)に「皇室祭祀令」が廃止されたあと、今日においても天皇陛下は両日に皇霊殿にて拝礼なされておられます。その後、昭和23年(1948)に新憲法下における祝日法にて「春分の日」・「秋分の日」に定められました。
祝日法に定められた趣旨として、春分の日は「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」、秋分の日は「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ日」という思いが込められています。
まとめ
春分の季節になると、野花や桜が咲き始め、木々の間からウグイスやメジロのさえずりが聴こえてきます。春風を感じながらのんびり散歩したり、ふきのとうやたらの芽などの山菜を味わってみるのもいいですね。
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
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