
二十四節気の「春分」の日を迎えると、いよいよ本格的な春の到来です。七十二候の「桜始開(さくらはじめてさく)」の時期とも重なります。この頃になると、全国各地から桜開花の便りが聞こえてくるもの。皆さんは今年の桜をどのような場所で楽しもうか、もう決めていますか? 桜を通して、春のおとずれを肌で感じたいという人も多いかもしれませんね。
古来より日本人は二十四節気を定め、季節を区分してきました。一年を24に分けることで、月日の移ろいを感じ取ってきたのです。自然に触れる機会が減り、季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか?
さて今回は、旧暦の第4番目の節気「春分」について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
春分とは?
2026年の「春分」は、【3月20日(金)】にあたります。太陽の中心が春分点上に来たとき、太陽は真東から昇り真西に沈みます。この昼と夜の長さがほぼ等しくなる日が「春分の日」となり、二十四節気の「春分」の期間が始まるのです。
また、春分の日は国民の祝日でもあり、「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」と定められています。寒さの名残があっても、草木は芽吹き、花はほころび、自然は確かに春へと歩みを進めています。
春分の頃は、彼岸(ひがん)の中日(ちゅうにち)にもあたります。仏教では、迷いの多いこの世を「此岸(しがん)」、悟りの世界を「彼岸」といいます。昼と夜の長さがほぼ等しくなる春分は、その二つの世界がもっとも近づく日と考えられ、先祖をしのび、感謝を捧げる節目となってきました。
七十二候で感じる春分の息吹
春分の期間は、例年【3月21日ごろ〜4月3日ごろ】。七十二候ではこの時期をさらに3つに分け、自然の細やかな変化を映し出しています。より細やかな自然の変化に目を向けると、春がいっそう身近に感じられます。
初候(3月21日〜25日頃)|雀始巣(すずめはじめてすくう)
雀が巣を作り始める頃です。身近な鳥たちもまた、春を感じ取り、新しい命を育む準備を始めます。
次候(3月26日〜30日頃)|桜始開(さくらはじめてさく)
桜の花が咲き始める頃。春の象徴ともいえる花が、ようやく枝先に色をのせていきます。
末候(3月31日〜4月4日頃)|雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)
遠くで春の訪れを告げる雷が鳴り始める頃です。春雷は、眠っていた大地を目覚めさせる合図のようにも感じられます。
春分を感じる和歌|言葉に映る春分の情景
皆さま、こんにちは。絵本作家のまつしたゆうりです。今回は誰もが毎年開花を待ち望むこの花の、切なく美しい歌をご紹介します。
桜花(さくらばな) 咲きかも散ると 見るまでに 誰(た)れかもここに 見えて散り行く
柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)『万葉集』3129
《訳》桜の花が咲いて散ったと見えるように、誰かもここに見えて散ってゆく。
《詠み人》『柿本人麻呂歌集』(かきのもとのひとまろかしゅう)。『万葉集』に記載があるのみの現存しない歌集で、当時大人気で超絶歌が上手かった宮廷歌人の柿本人麻呂が詠んだり集めたりした歌が載っているとされているものです。
柿本人麻呂の詠む歌は、みんなが思いつかないような壮大でファンタジーな世界観が特徴。私の一推し歌人です!

別れの季節、いろんな「卒業」や「さよなら」の歌を思い出しておられる時期かと思います。そんな歌リストに「ぜひこの和歌も加えてほしい!」と常々思っているのがこちらの一首。
桜の花が咲いて散ることと、人が出会って別れゆくことを重ねている、よくある題材といえばそうなのですが、誰もが思いつきそうな当たり前の例えのはずなのに、何故かこの歌はぐっと胸に迫ってきます。
それは最後の「見えて散りゆく」の一句の言葉選びの妙にあるのではないかなと思うのです。これが「見えて去りゆく」や、字余りですが「見えて別れゆく」だと、当たり前すぎて普通の印象になってしまいます。けれど桜と同じ「散る」という言葉にすることで、「これは単に別れなのか? それとも永遠の別れ、死別なのか!?」と、想像の余地が膨らみますよね。
似た別のものにたとえることで、いろんな解釈ができる余白。これが、歌を何倍にも魅力的にするのだと思うのです。
私たちはつい、「100%相手に伝わるように」と言葉を尽くし、微に入り細を穿って伝えようとします。ですが、多すぎる情報を一方的に押し付けられても、「多いな」と感じた人は自然と「全部受け取りたくない」と思い、「自分が必要だと思う情報だけ取捨選択して受け取る」ということをします。
そうすると、本当に伝えたいことが選ばれず、どうでもいい情報や、意図していない情報が伝わる、なんていう悲劇が起こることも…。大切なのは「相手が受け取れる量で、受け取れる分だけ届ける」こと。そしてもっといいのは、「相手から欲して、受け取りに来てくれる」ということなんです。
でも、それって怖い。「受け取りに来てくれないかもしれない」「足りないかもしれない」という不安が、余計なひと言を加え、当たり前の説明や余計な言葉を重ねてしまう。そうすることで、魅力が減るものもあるのだと思うのです。もちろん、当たり前の説明をしないといけないものもある。けれど、そうでないものもある。
あなたの中で、説明をしすぎているものはありますか? 新しく始まる季節に向け、そっと心の中を見つめてみてください。
「春分を感じる和歌」文/まつしたゆうり
春分に行われる行事|先祖をしのび、春を迎える祈りの日
春分の時期には、「花見」が行なわれます。古代・中世において、花見は貴族や武家の間でのみ行なわれていたものでした。
その中でも、豊臣秀吉の醍醐や吉野山での花見は数寄を凝らした衣装や歌舞などの芸事を含め、華美なことで有名です。この秀吉の花見が、江戸時代の庶民の派手な花見のさきがけになったといわれています。

春分の日と秋分の日の違いとは?
「春分・秋分」はお彼岸ですので(仏教行事の「彼岸会」より)、この日はご先祖様の御魂(御霊)を慰める意味がある日となりました。
宮中においては、明治時代に入るまで、歴代の天皇の御魂(御霊)は、命日に陵墓にてお祭りがなされましたが、次第に清涼殿の御黒戸(おくろど、いわゆる仏間)に、霊牌が安置されるようになり礼拝されていました。
しかし、明治元年(1868)の神仏分離令にて、この慣習が終わります。翌年、復興された神祇官により京都の御所から東京の皇居に「八神・天神地祇」と「歴代天皇の皇霊」が遷座され、「八神」と「天神地祇」は合祀されて「神殿」に祀られました。三種の神器の一つである「鏡(八咫鏡)」をお祀りする「賢所」。そして、歴代の天皇の皇霊を祀る「皇霊殿」が創られました。いわゆる「宮中三殿」のことです。
この歴代の天皇の御魂を祀る皇霊殿に、皇后・皇妃なども祀られるようになり、明治11年(1878)の秋分の日に、秋季皇霊祭が執り行われ、翌年の春分の日に春季皇霊祭が斎行されました。
そして、明治41年(1908)の「皇室祭祀令」により、春分の日・秋分の日に皇霊殿にて執り行う「大祭」となったのです。この日は、明治11年(1878)から昭和22年(1947)まで祝祭日に定められました。
昭和22年(1947)に「皇室祭祀令」が廃止されたあと、今日においても天皇陛下は両日に皇霊殿にて拝礼なされておられます。その後、昭和23年(1948)に新憲法下における祝日法にて「春分の日」・「秋分の日」に定められました。
祝日法に定められた趣旨として、春分の日は「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」、秋分の日は「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ日」という思いが込められています。
春分に見頃を迎える花|春の光に咲きほころぶ花々
長い冬が終わり、だんだんと日差しが暖かくなってくると、それまで寂しかった庭や公園の花壇にもぽつりぽつりと可憐な花が咲くのが見られます。春分の時期に咲く花は、ソメイヨシノやタンポポ、菜の花、木蓮など。見ていて気持ちが和らぐ花が多いですね。
桜
春分の頃に咲き始める花として、まず思い浮かぶのが桜でしょう。地域差はありますが、ちょうどこの時期から開花の便りが聞こえ始め、枝先にほころぶ花が春の深まりを知らせてくれます。
桜は、ただ華やかなだけではなく、開花から散る姿まで、古くから日本人の心をとらえてきました。入学や卒業、旅立ちや再会など、人生の節目と重なることも多く、春分という節目の季節にもよく似合う花です。

木蓮(もくれん)
木蓮は、葉が出る前の枝先に大ぶりの花を咲かせる花木です。白木蓮(はくもくれん)や紫木蓮(しもくれん)などがあり、すっと上を向いて開く花姿には、どこか凛とした気品があります。
春分の頃、まだ少し冷たさの残る空気の中で咲く木蓮を見ると、春はただやさしいだけではなく、まっすぐで力強い季節でもあるのだと感じさせられます。

春分の味覚|旬を味わい、季節を身体に取り込む
やわらかな苦みやみずみずしさ、香りの立つ旬の食材は、眠っていた身体をゆっくりと目覚めさせてくれるもの。春の訪れを舌で感じながら、季節の変わり目を健やかに過ごしたいときです。
野菜|新玉葱(しんたまねぎ)
春分に旬を迎える野菜は、新玉葱です。玉葱の歴史は古代エジプトまで遡り、日本に入ってきたのは明治からだといいます。春先から出回る新玉葱は瑞々しくて甘く、辛みも少ないので生食向きです。ポリフェノールを多く含むので、血液をサラサラにする効能があります。

魚|桜鯛(さくらだい)
春の産卵の頃、雄の鯛は腹部が鮮紅色を呈します。ちょうど桜の花が咲く頃なので、その美しい色を賞して「桜鯛」と呼ぶのです。また、花見の時期でもあるので、「花見鯛」と呼ばれることも。白身はふくよかで味もよく、まさに海の魚の王。
食べ方は、グリルやカルパッチョ、マリネなど様々。中でもやはり、刺身にするのが一番美味しいといわれています。
和菓子|桜餅(さくらもち)
花見はそこそこに「花より団子」となる人は昔から多かったようです。天文元年(1532)頃には「花よりもだんごとたれか岩つつじ」(『俳諧・新撰犬筑波集』より)という歌が詠まれています。
花見菓子の定番といえば、桜餅。
和菓子は京都発祥のものが多いですが、桜餅は東京発祥です。享保2年(1717)向島の長命寺境内で、山本新六が墓参りの人を手製の桜餅でもてなしました。それが桜餅の始まりだといわれています。
桜餅は、関東と関西で作り方が異なります。関東では餡を小麦粉の生地でクレープ状に巻いた「長命寺」、関西では道明寺粉の生地で餡を包んだ「道明寺」が主流です。
江戸時代、桜餅は「葉の香気が餅に移る様は品がいい」と人気を博しました。それは今も同じです。桜を愛でながら、春の味わいを楽しみたいところです。

写真提供/宝泉堂
まとめ
春分の季節になると、野花や桜が咲き始め、木々の間からウグイスやメジロのさえずりが聴こえてきます。春風を感じながらのんびり散歩したり、ふきのとうやたらの芽などの山菜を味わってみるのもいいですね。
●「和歌」部分執筆・絵/まつしたゆうり

絵本作家、イラストレーター、文筆家。共著『よみたい万葉集』 (2015年/西日本出版社/第6刷)。『大伴家持くんのへっぽこ万葉歌絵日記』(河出書房新社)2026年11月刊行予定。【絵本原画展】2026年11/1(日)〜14(土)(東京/狐弾亭)。WEBサイト:https://www.yuuli.net/ インスタグラム:https://www.instagram.com/yuuli_official/
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/菅原喜子(京都メディアライン) HP:https://kyotomedialine.com Facebook











