関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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竹久夢二の美人画のような妻に一目ボレ
今回の依頼者は、会社を経営しながら大学の講師をしている俊夫さん(仮名・62歳)。2年前に結婚した妻(42歳)の様子がおかしいと、私たちに相談に来ました。
俊夫さんは豊かな髪と黒縁メガネが印象的な男性です。中肉中背で穏やかな雰囲気をまとっている。文化的な雰囲気も漂っていて、女性にモテそうです。
「それが全然モテないんです。親から譲られた会社を経営しながら、趣味の弦楽器の練習をしたり、友達と遊んだり、学校で教えている間にあっという間に60歳になっていたんです」
毎日が充実している人は、周囲に進められない限り、なかなか結婚には踏み切らない傾向があります。
「そうなんです。でもこのコロナ禍で、“私には安らげる家庭がなく、家族もいない”と気付いたんです。家庭を持ちたいと思った時に、世話をしてくれる人がいて、妻と出会いました」
当時の妻は40歳。俊夫さんより20歳年下です。
「離婚歴があって、息子さんの親権を元夫側に取られてしまっていた。美大を中退しており、転職を繰り返していて、当時は派遣社員だったのかな? チェーンのパン店の店長をしていて、年齢的にも働くことがきつく、“専業主婦になりたい”と言っていると聞きました」
コロナ禍の中、知人の家で出会った妻は、俊夫さんのドンピシャの好みだった。
「小柄で色白で、額をキレイに出した黒髪をまとめていて……僕の好きなタイプの女性だったんです。はかない感じで芯が強くて。子供を産んだとも思えないくらいの体型で、すぐに好きになってしまった」
妻も俊夫さんのことを気に入った。前の夫は、にわかセレブで金遣いが荒く、浮気を繰り返していた。誠実で素朴な外見の俊夫さんは、これからの人生を共に過ごす相手として、ぴったりだった。
「とんとん拍子で結婚して、すぐに一緒に住み始めました。コロナ禍でろくにデートもしなかった。でも、記念になることを……と思って、近所の神社で友人達数人と簡素な式を挙げました」
写真を見せていただくと、スーツを着た俊夫さんの隣で、シンプルなピンクのワンピースを着た女性が微笑んでいました。
【ここ半年間、外出が増えて行った……次のページに続きます】