あっけなく退場した五代友厚(演・ディーン・フジオカ)。

残り数回となった『青天を衝け』。岩倉具視(演・山内圭哉)が世を去り、「西の五代 東の渋沢」と称された五代友厚(演・ディーン・フジオカ)も夭折した。

* * *

編集者A(以下A):病床にあった岩倉具視が〈建武以来の御上を王とする世とはまったくちごうてしもた〉といって嘆く場面が描かれました。昭和の時代には500円札紙幣の肖像で、子どもながらに「偉い人なんだろうな」と思っていましたが、近年の大河ドラマで描かれる岩倉具視には偉人感が足りないような気がします。

ライターI(以下I):500円硬貨の登場は昭和57年(1982)で、500円札の役割もほぼ終えましたからね。私は子どものころに見た記憶がうっすらある程度です。

A:その岩倉具視の台詞は当時の公家層共通の思いを代弁したように思えます。彼らは王政復古により「公家が活躍する」世の中がやってくると思ったのでしょうが、新政府の要職に就けた公家はごく一部にとどまり、それどころか、古代以来彼らを貴族たらしめていた、百官受領制度が廃止されたわけですから。

I:百官受領制度とは大納言とか右大臣、左大臣のことですか? つまり公家の皆さんは失業したということですね。

A:岩倉具視がどこまでその政策に関与していたかはわかりませんが、都が東京に遷り、百官受領が廃止されたということは、実質的に「京都が捨てられた」と言ってもいい衝撃的な出来事だったのでしょう。私は岩倉のあの場面をそのように受け止めました。

三菱・岩崎弥太郎との経済戦争の背景

I:海運を巡って栄一(演・吉沢亮)らが設立した共同運輸と岩崎弥太郎(演・中村芝翫)の三菱の激しい競争がリアルに描かれました。採算を度外視した料金値下げや社員の待遇改善など、消耗戦になっていったことを興味深く、わかりやすく表現してくれました。

A:明治時代のああいう小難しいことを面白く展開できるとは、大河ドラマの新たな可能性を見た思いです。熟練の脚本家を採用することで〈明治の大河〉が今後、票田になるのではないかという期待を抱かせてくれました。さて、劇中では〈岩崎弥太郎の独裁と渋沢栄一の合本〉の争いに収斂していましたが、実際は大隈重信(演・大倉孝二)が下野した「明治十四年の政変」の延長戦の側面もあって、大隈と関係の深かった三菱を政府側が煙たがっていたという背景があります。

I:共同運輸の設立に井上馨(演・福士誠治)や劇中には登場しない品川弥二郎など政府高官もかかわっていたわけですものね。三菱に対抗するために政府自らが新会社設立に関与するなど、今では考えられない構図です。

A:下野した大隈は改進党を設立して政府批判を展開していましたし、岩崎vs渋沢の経済戦争も政争の一前線ということで激化します。ただ、三菱の海運独占は弊害も大きかったのも事実。明治13年には、北海道小樽産の身欠鰊(百石)が産地の小樽では850円だったものが東京では1700円と2倍に跳ね上がっていたといいます。運送費がそれだけ上乗せされていたということですね。その一方で、三菱に対する攻撃は、岩崎弥太郎を「海坊主」と揶揄し、改進党を「偽党」とこき下ろすレベルの低いものだったそうです(笑)。

I:複数の会社で適度な競争をすることは必要な状況だったのに、三菱と共同運輸の競争は、政争の一端ということもあって度を超えたものになったんですね。そうなると、岩崎弥太郎が必死で競争を勝ち抜こうとしていたのもリアルな描写だったんですね。劇中では三井と三菱との競争が強調されていますが、三井は17世紀に伊勢から江戸に出て来て江戸での商いを始めた老舗ですからね。江戸幕府が瓦解して新政府が江戸に進出してきた際に、新政府にたっぷりと献金してうまく乗り換えたクチですし……。

A:新政府への献金といえば、三井と並んで大金を献金したといわれる豪商の「伊勢八」は為替取引の失敗で没落してしまいます。

I:いつの時代も没落っていうのは一瞬です。『青天を衝け』でも描かれた小野組はもとより、描かれなかった島田組など没落した豪商も多かったようですね。

A:なんだかんだいって、明治政府要人とのパイプの有無が浮沈を左右したような気がしますね。第37話で栄一が小野組のことに触れていましたが、小野組も要人とのパイプがあったら生き延びたのかもしれません。渋沢自身が、伊藤博文(演・山崎育三郎)に〈三菱に制裁を〉と陳情してたしなめられるシーンがありましたが、実際は、ああいうやり取りが多い時代だったのでしょう。

I:その魑魅魍魎の世界を生き残ったのが三井であり三菱なんですね。

A:岩崎弥太郎も大隈重信が下野したので生き残るために必死だったのでしょう。前回の当欄で加藤高明や幣原喜重郎など後に首相にのぼりつめる優秀な人材が弥太郎の女婿だということに触れましたが、そのくらい生き残りを意識していたのでしょうね。

I:なるほど。加藤高明は後年「三菱の大番頭」という批判もあったそうですが、サバイバルなんですね。

A:はい。その競争に敗れた伊勢八の「令嬢」が伊藤兼子(演・大島優子)です。彼女が栄一の後妻になります。劇中では栄一と兼子の出会いが曖昧な感じで描かれていましたが、実際はどうだったのでしょう。伊勢八ほどの豪商でしたら栄一と接点があってもおかしくないですし。しかし、凛としたたたずまいの兼子の姿をみると、没落したとはいえ、矜持を失わない姿に感動しますね。

I:伊藤兼子の登場と入れ替わるように五代友厚(演・ディーン・フジオカ)が退場しました。栄一に鬼気迫る表情で「まちっと大きめな目で日本を見んか!」と詰問する場面はジーンときました。同じ五代でありながら朝ドラ『あさが来た』とは別人のようなキャラで、「こういう楽しみ方もあるのね」と思ったりしました(笑)。

栄一(演・渋沢栄一)の後妻に入った没落豪商伊勢八の令嬢・伊藤兼子(演・大島優子)。

初代内閣総理大臣・伊藤博文

A:さて、第37話を含めて残り5話ですが、このところ毎回養育院の話題が登場します。栄一は亡くなるまで半世紀にわたって養育院事業に力を注ぎました。

I:養育院事業は、明らかにほかの経済人とは異なる「道徳と経済合一」を主張した栄一ならではの事業ですからね。

I:しかし、「惰民に税金を投入すべきではない」という当時の東京府会での主張ですが、劇中に登場している沼間守一(演・オレノグラフィティ)のほかに田口卯吉(演・米村亮太朗)らが声高に叫んだようです。このうち沼間守一は、大隈重信が退官後に設立した立憲改進党のメンバーですから、前出の政争から派生したものなのかもしれませんね。

A:もし政争絡みだとしたら許しがたいですね。

I:明治18年、伊藤博文が初代内閣総理大臣に就任した様子が描かれましたが、10月に総理に就任した岸田文雄首相は第百代の内閣総理大臣でした(11月の組閣で第百一代)。

A:百代目というと、中世の「百王説」を思い出します。

I:端的にいうと、帝も百代で滅びるとかの終末論ですよね。

A:『愚管抄』や『神皇正統記』などで触れられていますから中世では広く信じられていたんだと思います。

I:令和の現代は、「総理は百代で滅ぶ」という思想は広まりませんでしたね。

初代内閣総理大臣に就任した伊藤博文(演・山崎育三郎)。

●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/

●編集者A:月刊『サライ』元編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。かつて数年担当した『逆説の日本史』の取材で全国各地の幕末史跡を取材。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。幕末取材では、古高俊太郎を拷問したという旧前川邸の取材や、旧幕軍の最期の足跡を辿り、函館の五稜郭や江差の咸臨丸の取材も行なっている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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