最愛の妻千代(演・橋本愛)との別れ。

『青天を衝け』も第36話。三菱との経済戦争、長女の縁談と忙しい日々が続く栄一(演・吉沢亮)に、突然の別れが訪れた。

* * *

編集者A(以下A):今回、「明治14年の政変」ということで、大隈重信(演・大倉孝二)の失脚が描かれました。維新から14年の間に、明治6年の政変、明治9年の萩の乱から始まる士族の反乱、そして西南戦争、大久保利通(演・石丸幹二)暗殺ときて、明治14年の政変です。

ライターI(以下I):よくよく考えると、政権が落ち着く感じがしませんね。常に権力闘争をしている印象です。第32話で政府を去ったはずの井上馨(演・福士誠治)もいつの間にか復帰していますし。

A:この「明治14年の政変」は、さまざまな要素が入り組んでいて複雑怪奇ですから、あのくらいあっさり触れる程度でいいのかもしれません。大隈重信が下野するわけですが、ほかにも多くの人々が下野した一大政変でした。

I:ほんとうに明治の前半は政変続きだったんですね。

A:薩長土肥の藩閥間の争いに加えて三井三菱の政商と称された勢力が複雑に入り組んでいたのでしょう。『青天を衝け』は渋沢栄一が主人公ですから、どうしても三菱の岩崎弥太郎(演・中村芝翫)がヒールっぽく見えたりしますが、実際はどっちもどっちだったのかと思います。

I:五代友厚(演・ディーン・フジオカ)が渋沢に対して「岩崎くんもおはんも、己こそ日本を変えてやるちゅう欲に満ちておる」といっていましたから、第三者からみたらやはり同類に見えたのでしょう。

A:私は、こうした権力闘争が後には政党を巻き込んだものになっていくんだと思いながら見ていました。権力闘争=足の引っ張り合いですね。政党を巻き込み、国会開設後は有権者を巻き込み……。政策は勢い大衆迎合となり……。「維新礼賛」に走らずに淡々と描写すると、なぜ政党不信から軍部が台頭するに至ったのかが見えてくる気がしました。

佐賀人の大隈重信(演・大倉孝二)が薩長の政治家たちに失脚させられた。

渋沢家の豪勢な洋館暮らし

I:劇中で描写される飛鳥山(東京都北区)の渋沢栄一邸が洋館の豪勢な造りであることに驚かされています。維新からまだ10数年で栄一の暮らしぶりも変わりましたし、先様と呼ばれる徳川慶喜(演・草彅剛)の静岡の家よりもよっぽど豪華ですよね。

A:飛鳥山に今も残っている渋沢ゆかりの建物はもう少し後の時代のものですが、愛知県の「博物館 明治村」にはほぼ同時期の西郷従道邸の洋館があります。きっと同じような感じだったのではないですかね。以前も話しましたが、同じく「博物館 明治村」にある「森鴎外・夏目漱石住宅」と比較すると、その豪勢さが際立ちます。

I:私は愛知県出身ですから「博物館 明治村」は身近な存在ですが、Aさんはいつも犬山城登城と「博物館 明治村」がセットになっているんですよね。

A:はい。10年前に家族で訪れた際に投函した「10年後に発送される手紙」が、ちょっと前に届きました(笑)。『青天を衝け』で「明治」が脚光を浴びていますから、また訪れたいですね。

牛乳のシーンと長女うたの結婚

I:今週印象に残ったのは、渋沢邸で千代(演・橋本愛)が牛乳を飲むシーンです。牛乳は古代の朝廷に献上された記録や、牛乳から蘇などが作られていたことが知られていますが、その後、飲用の習慣は根付かなった。幕末に下田(静岡県)で駐日アメリカ総領事館初代総領事を務めたタウンセンド・ハリスが牛乳を所望したにもかかわらず、当初は供給できなかったエピソードを思い出します。それから20数年で一般に流通するまでに普及したんですね。

A:私はあのシーンを見てなんの脈絡もなしに、1980年に初めて「ポカリスエット」を飲んだ時のことを思い出しました。当時まだ小学生でしたが、「なんだこれは?」と感じたことが今も鮮烈に記憶されています。明治の人が初めて牛乳を飲んだ時の衝撃と比較するのも変ですが(笑)。さて、明治15年長女のうた(歌子/演・小野莉奈)が宇和島藩伊達家旧家臣穂積陳重(演・田村健太郎)とのお見合い、結婚のシーンも描かれました。穂積家は、もともと仙台伊達家の家臣の家柄。伊達政宗長男の秀宗が宇和島を拝領した際に仙台から宇和島に移った旧臣の家系です。

I:当代きっての経済人となった渋沢栄一息女ですから、縁談は引手あまただったでしょう。その中から選ばれたのですから優秀な人材だったんでしょうね。

A:確かに、学者の穂積陳重や大蔵官僚から大蔵大臣になった阪谷芳郎、東大で成績優秀だった明石照男(第一銀行頭取などを歴任)など、栄一の女婿は優秀な人材から選ばれていますね。ちなみにライバル岩崎弥太郎の女婿も東大首席卒業の加藤高明(後に首相)や幣原喜重郎(後に首相)、木内重四郎(官僚、京都府知事)などやっぱり優秀な人材揃いです。

I:閨閥作りには余念がないということでしょうか。面白いのは、栄一嫡孫の渋沢敬三が、木内重四郎息女(岩崎弥太郎の孫)と結婚していること。激しく争った栄一と弥太郎ですが、孫世代で縁戚になったというオチが……。

A:閨閥(けいばつ)っていうのはなかなか表に出ないですが、しっかり調査すると政官財の意外な関係が明らかになりますから面白いですよね。現代でも「そこがそういうつながりだから、これがこうなってるんだ」という発見があったりするそうです。

長女うた(演・小野莉奈)が学者の穂積陳重(演・田村健太郎)と結婚。

渋沢家の突然の悲しき別れ

I:千代がコレラに罹患したシーンは悲しい場面になりました。前週にアメリカのグラント将軍が来日した際に新聞でコレラが流行していることを報じる新聞記事を読む姿が劇中で描かれましたが、明治の前半は断続的にコレラが流行したようですね。

A:幕末に日本にやってきたというコレラですが、明治に入ってからは数年おきに断続的に流行していたようです。致死率も高くて、年間10万人以上亡くなった年もあったようです。

I:4月25日に長女歌子の婚礼がありました。千代が発病するのは記録によると7月13日で亡くなったのが14日。歌子の著書(『はゝその落葉』)には、12日までにはふだんと変わらずふつうに会話をしていたのが13日に突然発病し、〈急に御重態になられた故、居あはせた人々は驚き周章(あわて)て〉、名医が力の限り治療にあたったものの14日夕刻に亡くなったことが記されています。〈父上はじめ誰も誰も、只夢に夢みる心地がして何事も手につかず、ことに私たちは、世もこれで尽きはてた様に思はれて歎きまどう外は無かつた〉とあります。

A:私も歌子の著書のその個所は読みましたが、〈涙ながら訣別せられた父上が泣入る琴子・篤二の二人を引きつれて、病室を去られた時の有様は、時々目先にちらついて、私の為には生涯の悲劇である〉の個所が心にしみました。

I:栄一の切ない表情がジーンときました。前段で仲の良い家族の風景や牛乳のシーンがあっただけに余計に……。

A:コロナ禍でも面会もできずに最愛の人とお別れしなければならなかった人がたくさんいました。コロナ以外の病気でもお見舞いができないケースもありましたし。明治から医学は飛躍的に進歩していますが、越えられない壁があるということを実感しました。

●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/

●編集者A:月刊『サライ』元編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。かつて数年担当した『逆説の日本史』の取材で全国各地の幕末史跡を取材。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。幕末取材では、古高俊太郎を拷問したという旧前川邸の取材や、旧幕軍の最期の足跡を辿り、函館の五稜郭や江差の咸臨丸の取材も行なっている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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