ここ最近、遺言書に代わって家族信託というキーワードを耳にする方もいらっしゃるかと思います。そもそも信託とは、財産の所有者(委託者)がその財産の管理・処分を信頼する人(受託者)に託し、利益を受ける者(受益者)のために目的を定め運営を行う仕組み。内容次第では遺言書よりも優れた生前対策として利用することが出来ます。

遺言書は自筆証書遺言の形式であれば、自分でも作成することが可能ですが、家族信託の契約を自分で作成できるのかは疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士・中川義敬が、長年にわたる相続税申告や家族信託作成のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき作成方法や契約書の内容についてご紹介いたします。

目次
家族信託の必要性
家族信託契約書の雛形で解説
家族信託契約書の事例で解説
家族信託契約書を専門家に依頼するメリット
まとめ

家族信託の必要性

認知症などによって判断能力が十分でなくなった人は、自分の財産について正常な判断ができなくなってしまいます。この問題を解決するためには、家族信託が有効な手段。親が認知症になった後の財産管理を子が行えるようになったり、 預金を管理して治療費などの支払いに充てることや、財産の売却処分なども可能になったりします。当事者間で家族信託契約を締結することによって効果を発揮しますので、契約書を取り交わすことが必須となります。

また、家族信託は判断能力が十分でなくなる「前」にしか、契約を結ぶことはできません。遺言書はご自身の死後に効力が発生しますが、家族信託は自らの判断能力が欠如してから効力が発生するため、その前の段階で契約書を締結する必要があるのです。

家族信託契約書の雛形で解説

それでは、家族信託契約書を作成する場合の注意点を、実際の雛形を参考にお話をしていきます。家族信託契約には、必ず記載しなければいけない必須項目と、状況に応じて加筆する任意項目に分かれます。まずは必須項目から見ていきましょう。

必須項目

家族信託契約を作成する場合には以下の条項を必ず記載する必要があります。

・契約の趣旨
・契約(信託)の目的
・委託者、受託者、受益者の特定
・信託財産とその管理方法

まず、この契約が信託契約である旨、信託スキームを記載。そして、なぜこの信託契約を結ぶのか、委託者(信託)の目的を記載します。加えて誰が当事者になるのかを記載する必要があるので、委託者の氏名・受託者の氏名・受益者の氏名などを記載。最後に、受託者に信託する財産を列記して、その財産が特定できるようにする。そして、不動産の場合には登記簿謄本の通りに、財産が特定できるようにします。

任意項目

必須項目のほか、個々の状況に応じて任意の項目についても記載することになります。ただし、任意項目は将来的に起こりうる事情を考慮して記載することになるため、専門的な知識や経験が必要になるでしょう。

・受益者に相続が発生した場合、財産権の承継者を誰にするか
・受託者の辞任希望の際の手順と、次の受託者を決める手順
・受益者である親の判断能力が無くなった場合に、信託契約の内容を変更出来る受益者代理人の指定

家族信託誓約書の事例で解説

家族信託でよく利用される、認知症で正常な判断能力を失ってしまった時に備えて、子を受託者とする家族信託を行う場合の契約書の具体例をご紹介します。

委託者●●●●(以下「委託者甲」という)及び受託者▲▲▲▲(以下「受託者乙」という)は、令和○年○月○○日、以下のとおり信託契約を締結する。
第1条 信託の趣旨
委託者甲は、受託者乙に対して第2条記載の信託の目的を達成するため、第3条記載の財産を受託者乙に信託し、受託者乙はこれを引き受けた。
第2条 信託の目的
本件信託は次条記載の金融資産(金銭)を信託財産として管理運用及び処分、その他当該目的達成のため必要な行為を行い、委託者甲の判断能力が低下したとしても、受益者の安定した生活の支援と福祉を確保することを目的とする。
第3条 信託の設定及び信託財産
委託者甲は、次条記載の受託者に対し次の金融機関に預託している金銭の全額を信託財産として管理運用及び処分することを信託し、受託者乙はこれを引き受けた。
第4条 受託者
受託者は次のとおりとする。
住所 東京都○○区○○×丁目○○番○○号
職業 税理士
氏名 ▲▲▲▲
生年月日 昭和○○年○○月○○日
第5条 受益者
この信託の受益者は、委託者甲生存中は委託者甲(第一次受益者)とし、委託者甲死亡後は配偶者丙とする。
受益者丙は、委託者甲の死亡により、本契約上の委託者としての権利義務を承継する。

家族信託契約書を専門家に依頼するメリット

家族信託は契約書として法的なルールを守る必要があるため、不備が生じた場合には無効となってしまう恐れがあります。また、書類の作成にはどうしても専門的な知識や経験が必要となるため、ご自身で作成するには限界があるでしょう。家族信託は専門性の高い手続きであるため、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

ここでは、専門家に依頼することによるメリットをご紹介したいと思います。

信託内容について相談が可能

家族信託の活用方法は、ご自身の認知症や病気に備え、預金や不動産を正式に子供名義で預かり、管理運用を代行したり、不動産が遺産の大部分を占めるようなときは、不動産を信託財産とする信託を設定し受益権を共有化したりすること。ご自身が認知症などで判断できなくなることを想定して、様々なことを検討しなければなりません。

よって、ご自身の財産状況を冷静に分析してくれて、かつ将来にわたってどのように資産を相続させたいのか、その方法を相談できる専門家の存在が重要になってきます。

煩雑な手続きに対応してくれる

家族信託契約は何といってもその書式の専門性にあります。ご自身で作成される場合には法律の用語や形式を理解したうえで進めなければいけません。完璧なものを作ることは難易度が非常に高いでしょう。

また、全ての銀行が信託専用口座に対応しているわけではないため、ご自身で家族信託に応じてくれる銀行を探すことにも苦労します。しかし、専門家に任せれば、家族信託に対応した金融機関の選定まで行ってくれます。それらの法的なルールを全て満たしたうえで契約書を作成してくれるので、煩雑な手続きを全て依頼できることは大きなメリットになります。

不動産の登記にも対応してくれる

信託財産に不動産がある場合には、法務局で信託登記や名義変更登記が必要となるため、信託契約とセットで手続きが必要になります。専門家であれば登記の手続きも代行してくれるので安心です。

まとめ

遺言書のように、まだまだ家族信託自体が一般的な生前対策としてメジャーな方法ではありません。ですから書籍やインターネットなどの情報を基に、ご自身で作成しようとしても何らかの抜け落ちがあることも。そうすると、せっかくの信託契約が無効になる恐れがあります。

家族信託に詳しい専門家を探すとともに、それらの専門家が今までどの程度の実績があるのかもしっかりと確認して、よりベストな家族信託を検討していただきたいと思います。

構成・編集/内藤知夏・松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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