湖畔を馬上で散策する徳川昭武(演・板垣李光人)と篤太夫(演・吉沢亮)。

東京五輪期間中の休止を経て再開した『青天を衝け』。大政奉還、王政復古後の動静が、江戸からパリに送られた書状で説明されるという異例の演出が展開されたが……。

* * *

ライターI(以下I):東京オリンピック期間中3週にわたって休止していましたが、再開されました。

編集者A(以下A):再開第1回の第24話は篤太夫(演・吉沢亮)がパリに滞在していることを逆手にとって、江戸から届く書状で当時の情勢を説明するという手法がとられましたね。

I:本来、幕末史の重要なシーンで、徳川慶喜(演・草彅剛)の葛藤がどう描かれるのか注目していた人も多かったかもしれないですが、慶喜が登場することなく、鳥羽伏見の戦いも書状での説明のみという演出となりました。

A:慶喜の動向について、臆病だとか暗愚だとか、東照大権現様になんと申し開きすればとか篤太夫が激怒した通り、見方によっては慶喜のダークサイドを描くことになりますから、これまでの慶喜の描写を考えると、ダークな慶喜の姿は描かないという選択をしたのかもしれません。

I:加えて、一向に収まる気配のないコロナ禍の中で、鳥羽伏見の合戦シーンを描くのを断念せざるを得なかったのではないでしょうか。だとしたらほんとうに残念なことです。制作現場は感染リスクとの闘いもあり、大変だと思います。

篤太夫の断髪姿に「あさましい」と発した妻千代

A:いろいろな制約のある中で、救いは脚本のテンポがいいことでしょうか。篤太夫の断髪姿の写真を見た妻千代(演・橋本愛)が、「あさましい」と非難するシーンは微笑ましかったですね。実際は、一同揃っておったまげたんだと思いますが、千代だけ非難するという展開は意外で面白かったです。

I:あの時代に断髪するのは天地がひっくり返るくらいの一大事ですからね。あのシーンを見て、農村ではどのように受容されたのか調べてみたくなりました。

A:髪型の変遷って意外とまとまった本がないですから、明治の断髪だけじゃなくて、日本史の中の髪型の変遷をぜひ調べてみてください。面白い原稿になるといいなぁ(笑)。

I:さて、今週はパリで日本の情勢変化にやきもきしていた様子が主に描かれましたが、その一方で、篤太夫がエラール(演・グレッグ・デール)に証券取引所に案内されます。「国債というものです。フランス政府に短期間貸し付けるのです。預けた期間に合わせて利子がつき、現金が必要となればその時の相場で売ることができる。社債は同じ要領で会社にお金を貸すこと。会社はその借り集めた〈金〉で事業をする。リスクはあるがその〈金〉が事業の役に立つのです」。なんとわかりやすい台詞かと感嘆しました。

A:親と一緒に視ている子どもたちにとっては「なるほど」という台詞でしたし、残り17話で展開される「渋沢明治編」を象徴するシーンでした。実際の篤太夫がどうだったかはわかりませんが、同じくパリにいた同僚たちは、座学で経済の仕組みなどは承知のうえで渡仏していたのではないかと思います。しかし、実際に見聞して何を思い、何を感じたかが重要で、篤太夫は、この渡仏で大きく学んだのだと思います。

I:好奇心旺盛だったという篤太夫の面目躍如の場面ですね。同僚の多くが同じものを見て何かを感じたはずです。ところが維新後、実業家として大成したのは篤太夫。なぜ、篤太夫が成功したのか。その過程がどのように描かれていくのか楽しみですね。

篤太夫たちパリ万博視察団。

昭和51年の『風と雲と虹と』の吉永小百合を思い出す

A:第24話は印象に残る場面がもうふたつありました。ひとつはまだ学びたいことがあると言っていた徳川昭武(演・板垣李光人)です。

I: 馬上の昭武に随伴する篤太夫と湖畔を散策するシーン。美しかったですね。 ロケ地は群馬県渋川市の赤城自然園のようです。未公開エリアのようですが、コロナ禍が収束したら行ってみたいですね。いつになるやらわかりませんが。

A: 明治になってから同じ徳川斉昭を父とする土屋挙直(十七男)、昭武(十八男)、松平喜徳(十九男)の三兄弟がフランスに留学しています。昭武はほんとうにフランスが気に入ったのでしょう。

I: 昭武は明治以降も慶喜と頻繁に行き来して仲がよかったことが知られていますが、年の近い兄弟とも仲がよかったんですね。人柄がしのばれます。

A:もうひとつ印象に残った場面は、飯能で渋沢平九郎(演・岡田健史)が撃たれた直後に、篤太夫が珈琲にミルクを入れる場面に転じました。カップの中でミルクが渦巻きながら珈琲を染めて行く様子が、平九郎の最期を隠喩していた風でした。

I:私もそんな印象を受けました。

A:私はこの場面を見て、昭和51年の『風と雲と虹と』で語り継がれている場面を思い出しました。主人公の平将門(演・加藤剛)と思いを寄せ合っていた高貴な姫君貴子(演・吉永小百合)が雑兵にさらわれて凌辱されたことを隠喩する場面です。雑兵にさらわれた貴子がぐるぐる回転したんです。

I:めちゃくちゃ古い話ですね。

A:私は大人になってから再放送で見ましたが、オールドファンで思い出される方も多いのではないでしょうか。

I:そういえば、『決戦!鳥羽伏見の戦い 日本の未来を決めた7日間』という番組がNHKのBSで再放送されていましたね。

A:『青天を衝け』では、書状のみで細かい描写はスルーされましたから、埋め合わせだったんですかね?

エラールに教わり、国債と鉄道債を買って儲けることができたと礼を言う篤太夫。

●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/

●編集者A:月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を担当。かつて数年担当した『逆説の日本史』の取材で全国各地の幕末史跡を取材。函館「碧血碑」に特別な思いを抱く。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。幕末取材では、古高俊太郎を拷問したという旧前川邸の取材や、旧幕軍の最期の足跡を辿り、函館の五稜郭や江差の咸臨丸の取材も行なっている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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