王道の武士・武田耕雲斎
武田耕雲斎というと、猛々しい天狗党を率いた武の人というイメージが強いのではないか。
実際、津田さんも「今まで大河ドラマで演じた中で、一番の武闘派」と評している。天狗党の総大将になった剛剣耕雲斎の立回りは、見どころのひとつだ。しかし、それだけではないと、津田さん。
「武田耕雲斎を演じるにあたって色々調べてみると、やはり絵に描いたような王道の武士という印象が強かったです。でも、斬首という壮絶な最期を迎える人生の道筋を考えると、豪傑な武士というだけの人物ではなかったように思えました」
演じる中で津田さんが痛烈に感じたのは、耕雲斎の主君徳川斉昭(演・竹中直人)に対する強い忠誠心と、盟友藤田東湖(演・渡辺いっけい)との絆だったという。
「烈公と呼ばれた斉昭に、地道に最後まで仕えた人柄には清い実直さがうかがえます。それに盟友とも呼べる、同じ家臣の藤田東湖との絆。自分より歳は下ですが、斉昭も一目置く政の理念を持った東湖を、耕雲斎はきっと尊敬していたのではないかと思いました。きっと、そんな二人と過ごした水戸での生活は耕雲斎にとって人生最良の思い出だったに違いありません」
そして、耕雲斎の心のよりどころともいえるこのふたりの死は、耕雲斎の人生を大きく狂わせていく。
「ふたりが亡くなってしまった後、耕雲斎は人生の舵切りを見誤ったのではないでしょうか。もちろん、東湖の息子が率いる天狗党ですから総大将を引き受けるのは必然だったと思います。そうやって考えると、耕雲斎は人との絆をとても大事にする人だったように思えます。もっと言えば人が好きだったんだと思います。それゆえの人生だったのだと思います」
意識して、人が好きな、絆を大切にする武田耕雲斎を演じたいと思って挑んだと、津田さんは語る。
奇しくも津田さんは耕雲斎最期の地、越前(福井県)出身だ。『西郷どん』で松平春嶽役に抜擢された時には、運命のようなものを感じたという津田さん。
「高校生の頃から初詣は福井神社と決めていたので、上京してからもずっとお参りしていたのですが、そこが松平春嶽公を祀ってある神社だったんですね。春嶽は人徳のある人で、奥さんを大事にし、声を荒げることも無く、家臣の中で優れたものがいれば家柄や出身など関係なく引き立てたりされていたそうです。とても誠実に人生を送られたお殿様だったみたいです」
松平春嶽を尊敬しているという津田さんは続ける。
「春嶽公は越前藩で、優秀な藩士を何人も育てられていて、藩士の結束もかたく、その気になれば福井が天下を取ったんじゃないかとまで思ってます(笑)。ですが、きっと春嶽公はそういった派手なことが嫌いだったのではないかとも思っています。地道で優しく、切れ者で冷静。福井の県民性もそこを目指しているように思うんですよね」
最近になるまで、福井にも素晴らしい幕末の偉人がいることが広く知られていなかったのも、松平春嶽のような実直さが福井の人々に備わっているからではないかというのが、津田さんの考えだ。
そんな越前で命を落とした耕雲斎は、今も敦賀の地で眠る。
「仕事で敦賀に行くことがあったんですが、電車の中でそういえば!と思い出して、耕雲斎のお墓を調べてみたんです。敦賀駅から歩いても行ける距離でした。到着してホテルにも寄らずにお墓のある松原神社方面に向かいました。降っていた雨も、その時だけ止んで、なんだか耕雲斎さんに導かれているみたいでした。
耕雲斎をはじめ、当時斬首された天狗党の志士たちの墓前で、手厚く葬ってくれた福井の人々に感謝しつつ、手を合わせたという。
「これからは増々故郷に誇りをもって生きようと思います!」
津田さん演じる武田耕雲斎の最期は、6月13日放送予定の回に描かれる。津田さんの熱い演技に期待したい。
●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり