写真・文/藪内成基

戦国時代から全国統一へと進んだ織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。いわゆる「三英傑」の元で仕えた武将は、忠義を守りながら、時に家のために立場を変えながら生き残りを図りました。その選択の中で、出世を果たしたり、逆に左遷を命じられたり、全国を飛び回ることになった武将たちがいました。大異動が多かった武将を、赴任地の城とともに紹介し、戦国武将の転勤人生に迫ります。

今回は、織田信長との戦いで主君を失い、転々としながらも豊臣秀吉や徳川家康に重用された藤堂高虎(とうどうたかとら)を取り上げます。築城における工期短縮とコスト削減を実現した変革者。類まれな築城術だけが魅力だったのでしょうか?

浅井長政の家臣として織田信長と戦う

弘治2年(1556)、近江国犬上郡藤堂村(現在の滋賀県甲良町)、郷士であった藤堂虎高の子として藤堂高虎は誕生しました。幼少期から人並み外れた大きな身で、一説には身長6尺2寸(約190cm)であったともされます。

生涯に7人の主君に仕えることになる藤堂高虎ですが、最初に仕えたのは織田信長の義弟・浅井長政でした。元亀元年(1570)、織田信長と朝倉・浅井連合軍が争った姉川の戦いで初陣を飾るものの、浅井軍は敗北。主君を替えながら渡り歩いたあと、羽柴(豊臣)秀吉の弟、羽柴秀長に見込まれて、300石で召し抱えられます。天正13年(1585)には、紀州粉河(和歌山県粉河町)1万石の大名に出世します。

藤堂高虎の最初の主君、浅井長政が居城にした小谷城本丸跡

藤堂高虎の最初の主君、浅井長政が居城にした小谷城本丸跡

羽柴秀長のもとで本格的な築城に初めて関わる

藤堂高虎が大名となった天正13年(1585)、紀州を平定した羽柴秀吉は、弟の羽柴秀長に和歌山城の築城を命じます。約1万人が築城に動員される中、藤堂高虎は普請奉行に任命され、初めての本格的な築城にあたることになりました。羽柴秀長は大和郡山城(奈良県大和郡山市)に在城し、城代として和歌山城には桑山重晴がおかれました。

この頃、藤堂高虎は現在の和歌山県と三重県の境界付近に、赤木城(三重県熊野市)も築いています。天正14年(1586)に起きた「天正の北山一揆」を鎮圧するために建てられたとされ、高石垣や桝形虎口を備えた織豊系城郭の特徴をよく表しています。山間部にありながら、石垣造りの見事な城です。

和歌山城は羽柴秀長が標高48mの小山に居館を築いたのが始まり

和歌山城は羽柴秀長が標高48mの小山に居館を築いたのが始まり

藤堂高虎が縄張りをした赤木城。横長の自然石が積み上げられているのが特徴

藤堂高虎が縄張りをした赤木城。横長の自然石が積み上げられているのが特徴

豊臣秀吉の説得により還俗し、“慶長の築城ラッシュ”の先駆となる

和歌山城の築城から6年後の天正19年(1591)、豊臣秀長が没すると娘婿の豊臣秀保が後継者となり、藤堂高虎は代理人を務め、朝鮮出兵に参戦しています。しかし、豊臣秀保が早世したため、出家し高野山に隠棲してしまいます。藤堂高虎の才を惜しんだ豊臣秀吉の説得により還俗し、文禄4年(1595)には伊予宇和島(愛媛県宇和島市)7万石の大名となります。さらに、慶長の役の武功で1万石を加増されました。

宇和島城は、慶長元~6年(1596~1601)に藤堂高虎が築城し、大半が海に面する地形を巧みに活かした縄張り。石垣や天守、矢倉は、元和元年(1615)に入部した伊達家により修築されますが、基本的な構造は高虎時代のものが引き継がれています。

宇和島城の天守は、第一層から同じ形の建物を規則的に小さくしながら積み上げていく「層塔型」天守と呼ばれます。藤堂高虎が考案した様式で、同じ形の構造物を積み上げていくため工期が短縮でき、しかも建築コストが抑えられます。そのため、短期間で多数の城を築くことが求められた慶長年間に、一気に全国に広まりました。現存十二天守の中では宇和島城のほか、弘前城(青森県弘前市)、松本城(長野県松本市)、備中松山城(岡山県高梁市)、伊予松山城(愛媛県松山市)、丸亀城(香川県丸亀市)が該当します。

名護屋城本丸跡から玄界灘を望む。豊臣秀保の代理で藤堂高虎は朝鮮出兵に参戦した

名護屋城本丸跡から玄界灘を望む。豊臣秀保の代理で藤堂高虎は朝鮮出兵に参戦した

藤堂高虎が考案した「層塔型天守」の代表格である宇和島城

藤堂高虎が考案した「層塔型天守」の代表格である宇和島城

【関ヶ原の戦いでは徳川家康の勝利に貢献。次ページに続きます】

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