パリで開眼する

あるじ慶喜が15代将軍の座についたのは、1866(慶応2)年。これにともない栄一も幕臣の列につらなることとなった。翌1867年、彼は主君の弟・昭武の供をしてフランスへ渡る。パリで開催される万国博覧会に参加するためであり、やはり会計担当としての随行だった。

この折の見聞は、栄一の生涯に決定的な影響をおよぼしたと思われる。明敏な彼のこと、攘夷など不可能であることはとうに理解していたろうが、目のあたりにする西洋文明の精髄は全身を震わせるほどの驚きだった。旅行中に髷を切り落としてしまったという逸話からも、その衝撃がうかがえる。

パリで一行の案内をつとめたのは、フリューリ・エラールという銀行家。栄一は彼を通じ、銀行はもちろん、株式や鉄道などの事業についても詳細な知識をさずかる。これこそ、のちに栄一が進むべき道を示すものだった。また、民間人たるエラールが軍人と対等に接しているのをみて、大いに感ずるところがあったという。後年これを回想し、わが国でも「官尊民卑の旧習を打破しようと考えた」と述べている。17歳のおり、代官から与えられた屈辱が脳裡をよぎったことは容易に想像できるだろう。

一行はフランスのみならず、オランダ、イタリア、イギリスなどを歴訪する。ところがパリにもどってきたところで、驚天動地の事件が耳に飛びこんできた。主君・徳川慶喜が政治の大権を朝廷に返上してしまったという。いわゆる大政奉還だった。

「渋沢栄一」とは何をした人なのか(後編)【にっぽん歴史夜話41】に続く

文/砂原浩太朗(すなはら・こうたろう)
小説家。1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。2016年、「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。2021年、『高瀬庄左衛門御留書』で第165回直木賞・第34回山本周五郎賞候補。また、同作で第9回野村胡堂文学賞・第15回舟橋聖一文学賞・第11回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。2022年、『黛家の兄弟』で第35回山本周五郎賞を受賞。他の著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』、共著に『決戦!桶狭間』、『決戦!設楽原(したらがはら)』、 『Story for you』 (いずれも講談社)がある。『逆転の戦国史「天才」ではなかった信長、「叛臣」ではなかった光秀』 (小学館)が発売中。

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