将軍職を目指す足利義昭(演・滝藤賢一)は、朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)の協力を待ちながら敦賀に足止めされた状態が続く。

怒涛の展開を見せる『麒麟がくる』後半戦。還俗した足利義昭(演・滝藤賢一)が越前敦賀にたどり着く。前週に義昭は将軍の器ではないとしていた光秀だが、義昭の思いに触れて心変わりする。そして、光秀から本能寺の変に至る重大な台詞が発せられた。

* * *

ライターI(以下I):前週まで僧体だった覚慶(演・滝藤賢一)が朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)を頼って越前敦賀までたどり着きました。

編集者A(以下A):髪の毛も伸びましたね。還俗はしましたが、元服はまだという状況で、この時の名乗りは義秋(後に義昭に改名/以下義昭で統一)。甲賀の和田氏宅に入る様子は先週描かれましたが、越前にたどり着くまでには、矢島御所(現滋賀県守山市)に滞在したり、将軍継承への道はすんなりいかなかった。

I:蝶の羽に蟻が群がる様子を観察する姿が目を引きました。オープニングの〈資料提供〉欄には時代考証の小和田哲男先生のご子息小和田泰経さんとともに吉澤樹理さんの名前がありました。蟻の研究者としては著名な方。わざわざそのような方の指導を受けてあの場面を撮影したんですね。

A:義昭が〈私は蟻だ。将軍という大きな羽は一人では運べん。しかし助けがあれば〉という話をしていましたね。そのエピソードを展開するために蟻の研究者まで動員するとは、さすが日本放送協会ですね。

I:そういえば、信長(演・染谷将太)がかつて義父の斎藤道三(演・本木雅弘)が居城としていた稲葉山城の主になりました。

A:ようやく美濃攻略がなったんですね。そのことを解説するために登場したのが稲葉良通(演・村田雄浩)でした。〈龍興さまでは美濃は収まらぬ。肝が小さいのじゃ。何事も一人で決められぬゆえ、我らは振り回されてばかり〉と光秀に心情を吐露しました。

I:土岐家から離反して道三に付き、その後は道三を裏切り義龍(演・伊藤英明)に付き、今度は龍興を裏切る……。世渡り上手なんでしょうね。

A:そう。まさに世渡り上手。外孫の春日局は徳川三代将軍家光の乳母ですし、良通の子孫は複数の家で大名として存続します。光秀や足利義昭、朝倉氏や浅井氏、柴田勝家など、多くの登場人物が滅亡する中で、戦国の荒波をうまく渡り切った稲葉良通は、たいしたものだと思います。やはりしたたかでなければ生き残れないですよね。

I:今週は、光秀の母牧(演・石川さゆり)が美濃に戻ったり、美濃を平定した信長に挨拶に行くなど、光秀は大忙しでした。

A:気になったのは、帰蝶(演・川口春奈)が清須にいるという設定で登場しないことです。前半戦に〈女軍師〉の如くに活躍していただけに、ちょっと寂しい感じがします。

I:帰蝶の不在を聞いた光秀の〈そうですか。それは残念〉という台詞があっさり過ぎてなんだか不安です。このまま帰蝶が退場ということはないですよね?

A:さすがに退場はないと思いますが、いわれてみると心配ですね。

美濃を手中に入れた信長(演・染谷将太)。

本能寺の変につながる光秀の言葉

I:ところで、足利義昭がやたらと善人キャラなのがものすごく気になります。貧しい人を救いたいという強い思いがあるようです。

A:これまでの大河で伊丹十三さん(『国盗り物語』)、玉置浩二さん(『秀吉』)が演じた野心的な足利義昭像とはかけ離れた義昭になっています。この義昭像と今週発せられた光秀の台詞をかけ合わせると、本能寺の変に至る伏線がくっきりと浮かび上がるのではないかという印象を持ちました。

I:その台詞とは、信長との間で交わされた〈幕府を再興し、将軍を中心にした平らかな世〉というものですね。誰も手出しができない大きな国を作りたいと。

A:そう。その台詞です。光秀はこれまでも足利義輝を敬愛する姿が描かれました。そして、その義輝が殺害されたにもかかわらず、〈将軍を中心にした平らかな世〉を志向する。光秀が信長を討った後の構想として、鞆の浦(広島県福山市)に滞在していた義昭を京都に迎え入れて室町幕府を再興し、管領には娘婿の細川忠興を充てるという考えがあったともいわれていますが、その説に沿ったストーリーなのかと感じたわけです。

I:なるほど。それは重要な台詞ですね。

A: そう思う一方で、光秀と松平竹千代(後の徳川家康)との出会い(第4話)を振り返ると家康絡みのストーリーで展開する可能性もゼロではないという思いもあります。

I: 光秀目線の本能寺がどのような解釈で展開されるのか、最後まで気が抜けませんね。先週に義昭の将軍就任に難色を示していたのに、蟻の例え話を聞いた今週は〈強い大名方がお支えすれば、立派な将軍に〉と心変わりしました。

A:意外に直に接した人物の影響を受けやすい設定なんですよね。光秀は。

I:ところで、今週気になった場面がありました。光秀の館を細川藤孝(演・眞島秀和)と義昭が訪ねたシーンです。

A:ああ。光秀の子供たちと遊んでいましたね。

I:そうです。そのとき義昭が顔に当てていた面があります。あれは、舞楽のさいにつける紙製の雅楽面の一種で、白い紙に墨で抽象的に目、鼻、口が描かれています。右舞「蘇利古(そりこ)」、左舞「安摩(あま)」などで使われていて、蘇利古の面は映画『千と千尋の神隠し』に登場する春日様のモデルなんですよね。

A:一瞬のことですが、さり気なくそうしたアクセントをつけてくるのがすごいですよね。

I:今週でいうと明智家の美濃旧宅の場面で背景に映りこむ庭園や一乗谷の朝倉館の庭園ですね。一乗谷の庭園は本当に一瞬でしたが、精緻に再現されているなあと感じ入りました。

A:福井県の一乗谷朝倉氏遺跡を訪れると、ドラマの中の義景居館の庭はこれか、と合点がいきます。

I:大河ドラマはよく美術スタッフで持っているともいわれますが、美術スタッフの仕事ぶりにも注目いただきたいですね。

舞楽面を顔につけて光秀の子供たちと遊ぶ義昭。驕らず気さくで、平和的な思想の持ち主として描かれている。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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