取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
“早寝・早起き・朝ごはん運動”を推奨する食育の第一人者。多忙な日々を支えるのはご飯・味噌汁・卵焼きの和朝食だ。
【服部幸應さんの定番・朝めし自慢】
ともかく多忙な人である。服部学園理事長を始め、その肩書は五指に余る。加えて、料理コンクールの審査員だけで年80回、講演は年180回に及ぶ。その他、映画やテレビドラマの料理監修の仕事も少なくない。
「32歳で母・記代子の後任として服部栄養専門学校の校長になって以来、合計しても2週間ぐらいしか休んでいないのではないでしょうか。仕事をしているのが、僕の健康の秘訣なのです」
昭和20年、料理学校の草分けである『服部学園』創立者・服部道政の子として東京に生まれた。祖母いわく2歳で包丁を持ち、祖母の和食、母の洋食の味で育った。味覚は4歳頃に形作られたという。
中学生になると、魚や野菜、果物などの産地ごとの食べ比べをして味を覚えた。さらに高校生時代には、父とともにフランスなどの欧州を度々訪れ、各地の料理店を探訪。こうして、味覚はますます研ぎ澄まされていったのであろう。
「校長になってフランス料理のジョエル・ロブション氏を始め、名だたるシェフを招聘し、この40年間に125人のシェフを招きました。お陰で、その時代の味の流行を知ることもできたのです」
“食の伝道師”と称されるのもうなずける。
服部流和朝食の3つの鍵
服部さんは“早寝・早起き・朝ごはん運動”を推奨し、3食の中でも朝食こそ肝要という。そんな服部流“朝めし”は和食である「日本人にとって和食こそ、体質に合った最善の食事法なのです。朝食は家内が作りますが、献立は僕が考えたもの。その和朝食のポイントは、次の3つです」
その1は、ブドウ糖の供給源であるご飯などの炭水化物。その2は、筋肉などを作る卵などのたんぱく質。その3は、疲労回復にも効果のある野菜や果物などのビタミンやミネラル。この3つに、具だくさんの味噌汁が定番だ。日によっては、これに地方で求めた品や到来物が加わることもある。
家では朝食しか摂らないという。昼食は、学校で講師らが作る料理を試食。そして、夜は“夕食は自分より知識のある人と食べろ”という父の教えを守り、外食となるからである。
食育を実践することが、明日の日本、いや世界を作る
30年以上前から“食育”に取り組んでいる。
「日本の教育の基本理念は“知育・徳育・体育”ですが、それに“食育”を加えることで、より確かな効果が得られるのです」
服部さんらの提唱で、平成17年には「食育基本法」が制定された。食育とは、単に健康に良いものを食べることではない。人の心身を健全に育み、日本の未来を作るものだ。その柱は、選食能力を養うこと、食卓で一般常識が身に付くこと、地球の食を考えること、の3つだという。
「3歳から8歳は子供の躾に最も適し、脳の成長にも大きな影響を与える大事な時期ですが、今の子供はこの時期に家族団欒で食事をする“共食”の機会が減っている。だからこそ、学校や地域を通して食べることに興味をもち、正しい知識を学んでほしいのです」
平成27年に国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)には“海や陸の豊かさを守ろう”や“飢餓の根絶”など食育に通じる目標も多く、その啓蒙にも尽力。食育こそが明日の世界を作るという信念からである。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2019年10月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。