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健康

不健康な生活習慣を科学的に改善する6ステップ【予防医療の最前線】

文/中村康宏

喫煙、飲酒、食べ過ぎ、運動不足など、不健康な生活習慣を「わかっているけどやめられない」「やらなければいけない、けれどできない」という葛藤は、皆さんもよく経験することでしょう。そういう習慣化された行動を変えることは非常に難しいもので、行動に移せなかったり、失敗に終わってしまうことが多いものです。なぜなのでしょう?

理由は人それぞれですが、その理由を科学的にさらに踏み込んでみると、生活習慣を変えるための成功のカギが見つかるかもしれません。

そこで今回は、そんな人間の行動を研究する「行動科学(Behavioral Science)」という学問の理論が、生活習慣の改善にどう活かせるか解説しましょう。

*  *  *

行動科学というのは、人間の個人や集団の行動に関することを科学的に研究し、その法則性を解明しようとする学問のことです。心理学、社会学、人類学などがこれに含まれ、特に現代心理学は、行動科学の中心的領域になっています。ヒトの健康行動のみならず、会社組織のマネージメントや人材育成にも用いられている、意外に身近な学問でもあるのです。

基本的な考え方は、「なぜそのような行動をとるのか」と行動を分析することで、次にどのような行動が起こるか予測でき、その行動を制御することが可能になる、というもの。このことから行動科学は、不健康な生活習慣を変えるという、いわゆる“健康教育”にも必須の学問と考えられているのです。

行動を分析するための理論は数多く存在しますが、今回はその中から「変化のステージモデル」と「健康信念モデル」という2つの理論について紹介しましょう。

■理論1:変化のステージモデル

生活習慣を変化させるには、まず自分が変化の過程においてどのステージにいるのかを認識し、取るべき手段を考える必要があります。その変化のステージを明確にさせるのが、「変化のステージモデル」(Transtheoretical Model)です(参考文献※1)。

この理論によれば、行動を変えようとする人は、どんな人も以下の5つのステージを進んでいく、とされています(※2)。

(1)無関心期:6ヶ月以内に行動を起こすつもりがない時期。変化のための情報提供などが次のステージへと進める。
(2)関心期:6ヶ月以内に行動を起こそうという意図がある時期。大まかな計画を立てたり、動機付けをすると次のステージへと進める。
(3)準備期:30日以内に行動を起こそうという意図があり、すでにいくつかの行動段階を経ている時期。より具体的な計画を立てる。
(4)実行期:行動を始めてから6か月以内。行動を振り返り改善する。
(5)維持期:行動を始めてから6か月以上。失敗や後戻りを防ぐ。

■理論2:健康信念モデル

次に「人はなぜ生活習慣を変えようと思っても行動に移せないのか?」という疑問に答えるために開発されたのが「健康信念モデル」(Health Belief Model)です。これは、自分が病気になりやすいかどうか、その病気を避けることによる利益はあるか、という認識を持つことが、行動の準備に影響すると理論化しました。

そして行動を実行に移すためには、以下の6個の要素全てを満たすことが必要であると結論づけています(※2)。逆に、これらが揃わないから行動をつい「先延ばし」にしてしまうのだ、ということです。

(1)自分がその状態になりやすいという認識
(2)その状態が重篤な結果をもたらすという認識
(3)行動をとることがその重大性を減らすという認識
(4)行動をとることの物質的・心理的なコストの認識
(5)行動のきっかけ
(6)行動をうまく行う自分の能力の確信

これら6個の要素は、とくに前述した「変化のステージモデル」の(1)無関心期〜(3)準備期において強く求められるものとなります。

変化のステージモデルと健康信念モデル。どちらも、人はなぜ変われないのか?、自分は変化の過程のどの段階にいるのか?という疑問に答える理論である。

より具体的に感じていただくために、例を挙げましょう。

ぼんやりと「禁煙したい」と考えている人がいたとします。この場合、少しは喫煙のリスクを理解していて、変化を起こしたいと考えている段階なので、変化のステージモデルの「関心期」にあたります。この段階では、喫煙がもたらす影響を細かく調べたり、どのような禁煙方法があるのかといった情報を収集することが有効です。

次に「健康信念モデル」の6個の要素がどのように満たされれば「禁煙」を実行に移せるのかを、具体的なステップとして示してみましょう。

【ステップ1】自分がその状態になりやすいという認識を持つ
・どのような時にタバコを吸うのか、また吸いたくなるのかを考える。
・喫煙者がどれくらいガンになりやすいのか詳しく知る。
・飲酒や運動不足など他の生活習慣について考える。

【ステップ2】その状態が重篤な結果をもたらすという認識を持つ
・ガンや動脈硬化がどのような結果をもたらすのか知る。

【ステップ3】行動をとることがその重大性を減らすという認識を持つ
・(1)(2)を踏まえ、禁煙が望ましい行動であると心から納得し理解する。

【ステップ4】行動をとることの物質的・心理的なコストを認識する
・禁煙外来の値段を調べる。
・将来病気になった時の入院費用などを試算してみる。

【ステップ5】行動のきっかけをつくる
・禁煙外来を受診し専門家の話を聞く。

【ステップ6】行動をうまく行う自分の能力に確信を持つ
・これならできる、という到達可能な小さな目標を立てる。例えば、ニコチンパッチやガムを使用し、1週間の禁煙にトライし、1週間後結果を医師に伝える。

*  *  *

以上、今回は「行動科学」の研究成果をもとに、不健康な生活習慣を変えるための具体的なステップについて解説しました。

残念なことに、日本ではまだ、ご紹介したような健康教育や行動変容の理論が、現場で十分に理解され活用されていません。 それゆえ個人個人が「なぜ失敗したのか?」について深く考えるように心がけていただきたいのです。

診療をしていて筆者が感じることは、生活習慣の改善に失敗する人は、目標が高すぎたり、「健康信念モデル」のいずれかの要素が満たされていないことがとても多いということです。必要なのは、まず自分の状況を分析・認識すること。そして何よりも、行動することで達成できた満足感が得られることです。とくにこの達成感・満足感というのは、行動の維持・継続には必要なもので、そのためにも実現可能な目標を細かく立てることをお勧めします。

これら研究の知見を用い、失敗する理由を深く見直すことで、一人でも多くの方に生活習慣改善の成功体験を得ていただけることを願っています。

【参考文献】
※1 Prochaska JO, DiClemente CC. Journal of Consulting and Clinical Psychology 51; 390‒95: 1983.
※2 Glanz. Health Behavior and Health Education: Theory, Research, and Practice.

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

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