
日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)

牧田式ミラクルフード:イミダゾールジペプチド
動物の骨格筋や肝臓の中に含まれる「イミダゾールジペプチド」という成分に、優れた抗酸化作用、抗AGE作用があることがわかっています。まさに、ミラクルフードと呼ぶにふさわしい成分です。
渡り鳥がずっと大海の上を飛び続けたり、マグロのような回遊魚が泳ぎ続けたりできるのは、そうしたパワーを生み出すイミダゾールジペプチドを体内にたくさん持っているからです。
私たち人間の体内にもあり、疲労を回復したり、抗酸化作用で病気を予防したり、認知機能を改善したりという素晴らしい働きをすることがいくつかの研究で証明されています。
大阪市立大学の研究チームは、イミダゾールジペプチドを4週間毎日摂取した群と、そうでない群に4時間の自転車こぎ運動をしてもらい、疲労度合いを比較する実験を行いました。その結果、イミダゾールジペプチドを摂取しなかった群は投与した群に比べ、負荷実験から4時間後には約1.5倍の疲労感の差、実験終了から4時間後には約2倍の差が確認できたそうです(2008年発表、図15参照)。

また、下のグラフ(図16)は、2008年に中高年を対象に行われた実験結果を示すものです。イミダゾールジペプチド225ミリグラムを含むタブレットを1日1回1か月摂取し、疲労感に関するアンケートをとると、眼および全身の疲労感が「とてもある」から「全くない」へと緩和されていくことがわかったと報告しています。

さらに、2009年に『薬理と治療』という専門誌で報告された研究では、疲労を自覚している日本の健康な成人207名を対象に、鶏のむね肉由来のイミダゾールジペプチドを8週間摂取してもらい、その効果を調査しました。
その結果、一日200ミリグラムのイミダゾールジペプチドを摂ると疲労を軽減することがわかったそうです。
イミダゾールジペプチドの摂取で記憶テストの結果が良くなったという報告もあります。
中高年の健常者39名にイミダゾールジペプチド1グラムを含む顆粒を1日1回、3か月間摂取してもらい、摂取しなかった群(プラセボ群)と比較した研究では、記憶力(遅延記憶力)の低下が抑制されていることがわかったというのです(図17参照)。

アスリートもよく食べている
ちなみにイミダゾールジペプチドには、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシンなどいくつかの種類が存在します。
なかでも、とくにカルノシンとアンセリンは体を酸化から守り疲労を和らげる効果が高いと言われています。また、血圧の上昇を抑える働きがあることもわかっています。
疲れが取れにくく、血圧の値が気になり始める年代になったら、積極的に摂りたい成分です。
下の表(図18)にあるように、食材としては鶏肉や豚肉に多く、とくに鶏のむね肉にカルノシンとアンセリンが多く含まれています。

総じて肉類にはカルノシンが多く、このほかマグロ、カツオ、サケにはアンセリンが、クジラにはバレニンが多く含まれます。
イミダゾールジペプチドは、これら動物がよく動かす部位にたくさん存在します。
たとえば、鳥類は飛べなくなったら死んでしまいます。それゆえ、飛ぶときに使う胸の肉に疲労回復作用があるカルノシンが多く含まれるのです。
鶏のむね肉は、脂肪が少なくタンパク質が豊富なことから、アスリートが夕食の素材としてよく用います。
イミダゾールジペプチドの効果を期待することに加え、食べ方としては、なるべくAGEを増やさないようにしたいものです。
マグロやカツオなど、生で食べられる魚は刺身が一番です。
加熱が必要な肉類は、揚げたり焼いたりという高温調理ではなく、蒸したり茹でたりして食べましょう。
なお、加熱調理の過程で出る汁(スープ)にも、イミダゾールジペプチドが溶け出ていますから、捨てずに飲むといいでしょう。
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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。

牧田善二/著 四六判208ページ 小学館刊 1650円(税込)










