日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)
AGEが増えると腎臓が悪くなる
AGE研究に没頭する真の理由
腎臓が濾過して尿に排泄している老廃物や毒素には、悪性物質のAGEも含まれます。
AGEは体中で悪さをして老化を促進しますが、腎臓がしっかり働いていれば一定量は排出されます。しかし、腎臓の働きが悪くなるとAGEが溜まりやすくなり、慢性的な疲れが取れないのはもちろん、いろいろな病気に罹りやすくなります。
一方で、AGEが溜まりやすい生活を送っていると、大切な腎臓が害されるとも言えます。まさに、AGEと腎臓は切っても切れない関係にあるのです。
その仕組みについて、簡単に説明しましょう。
腎臓には、コーヒーフィルターのような「膜」があり、それを通過することで老廃物や毒素が濾過されます。
ところが、その膜にAGEがくっつくと、炎症が起きて小さな穴が開いてしまいます(図7参照)。
コーヒーフィルターに穴が開けばコーヒーのカスが漏れ出てしまうように、腎臓の膜に穴が開けば、本来は出てこないはずのタンパク質などの物質が尿に漏れ出てしまうのです。もちろん、老廃物や毒素の濾過もうまくいかなくなり、疲れが溜まっていきます。
このように、「腎臓が悪くなるとAGEを溜め込んでしまう」「AGEが増えると腎臓が悪くなる」という2つの側面から、AGEによってどんどん疲れやすい体、病気に罹りやすい体へと移行していきます。
AGEは食事との関係が深い物質
私は医学部を卒業後、しばらく大学病院に勤務していました。そこでは、糖尿病の合併症で腎臓を悪くし、透析に入る患者さんをたくさん見てきました。
そうした患者さんを助けたくて私は、合併症腎症を進行させる原因について学ぶべく、アメリカに留学しました。
当時、まだ解明途中ではあったものの、AGEが腎臓を悪くする代表的な原因物質であることが指摘されていました。そこで私は、AGE研究の最先端の場で、まさに寝食を忘れて研究に没頭しました。そして、1992年、当時は「絶対に無理だ」と言われていた血中AGE値の測定に、世界で初めて成功したのです。
その成果は、『The New England Journal of Medicine』など、最高峰と呼ばれるいくつかの医学誌に、筆頭執筆者として論文を発表し、高い評価を得ました。
自ら開発したその測定法を用いて、透析に陥った患者さんの血中AGE値を調べてみて驚きました。なんと、正常な人に比べて10倍以上も高かったのです。
日本に帰ってからは、クリニックの名前も「AGE牧田クリニック」とし、さらに研鑽を積んでいます。そして、研究すればするほど、AGEという物質のタチの悪さを認識するに至っています。
疲れを溜めずに健康で長生きするには、腎臓をAGEから守ることが非常に大事です。一度ダメになった腎臓は戻らず、命尽きるまで透析が必要になります。
AGEは、食事との関係が非常に深い物質です。
心当たりのある方は、どうか、今すぐ食事内容を見直しましょう。
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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。