日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)
疲労を招く食生活でなぜ太るのか
カロリーではなく糖質が原因
これまで何度も述べてきたように、糖質をたくさん摂ると血糖値が乱高下し、眠気やだるさ、集中力の低下などに代表される慢性疲労を招きます。みなさんの疲れをつくりだしているのは、糖質の多い食生活です。
では、それがなぜ、肥満に繫がるのでしょうか。
いまだに多くの人が、太るのは「カロリーの高いものを食べ過ぎているからだ」と思っています。
「瘦せたければ、出る(使う)カロリーよりも、入れる(食べる)カロリーを少なくすればいいだけだ」と、したり顔で言う人もいます。医師ですら、そう信じている人がたくさんいます。
一見、論理的なようですが、人間の体はそれほど単純なものではありません。そこには、消化・吸収などの「生化学」の視点が抜け落ちています。
「カロリー理論」でいくと、カロリーが高い脂身たっぷりのステーキをたくさん食べていれば、どんどん太ってしまいます。しかし、そんなことはありません。
実際には、脂身たっぷりのステーキを3枚食べた人より、米飯を3杯食べた人が太ります。太る原因は、糖質であって、タンパク質や脂質ではないからです。
そのメカニズムを説明しましょう。
米飯などに含まれる糖質も砂糖と同様、消化の過程ですべてブドウ糖に分解されます。
そのブドウ糖は、小腸から血液中に吸収されて血糖値を上げます。そのとき、膵臓からインスリンが分泌されて、血糖値が上がりすぎないよう対処します。
そして、この「対処」が肥満に繫がるのです。
血液中に余ったブドウ糖は、最初はインスリンによってグリコーゲンという物質に変えられ、筋肉や肝臓に蓄えられます。
ただ、グリコーゲンとして貯蔵できる量はさほど多くなく、残ったブドウ糖は、今度は中性脂肪に変えられ、脂肪細胞に取り込まれます。
どうして、余ったブドウ糖が中性脂肪に変えられるかといったら、そのほうが備蓄するのに効率的だからです。
日本人の食生活は圧倒的に糖質が多い
糖質は1グラム4キロカロリーなのに対し、脂質は同じ1グラムで9キロカロリーのエネルギーを持っています。少しでも軽い状態で多くのエネルギーを有しているほうが有利ですから、ブドウ糖が積極的に中性脂肪に変えられるのです。
これもまた、人類が生き抜くための優れたプログラムですが、糖質過多の現代社会においては、それによって多くの人が太ってしまうわけです。
つまり、肥満のメカニズムは、糖質を摂りすぎて余ったブドウ糖が中性脂肪に変えられ、脂肪細胞に取り込まれるというものです。
口から食べたステーキの脂身が、そのまま脂肪細胞に取り込まれるわけではありません。あくまで、糖質がみなさんを太らせるのです。
そもそも脂質は、多くの人が想像しているような悪者ではありません。それどころか、脂質は細胞膜の原料となるなど重要な働きをしており、むしろ摂取量が足りていないくらいです。
一般的な日本人の一日の三大栄養素摂取量は、タンパク質約70グラム、脂質約60グラムであるのに対し、炭水化物(糖質)は4倍ほどの約250グラムにもなります。
このように、圧倒的に糖質が多いのが日本人の食生活の特徴です。
しかも、これは平均的な値であって、米飯やパン、麺類が好きな人はもっと食べているでしょう。
その結果、疲れやすくて太りやすい体になってしまうのです。
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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。