3食の中で、最も楽しみなのは朝食。病弱だった頃からの母の助言、「朝食に“テキ”を食べろ」を、今も守り続けている。

【絹谷幸二さんの定番・朝めし自慢】

手前右から時計回りに、テキ(牛ヒレステーキ)、付け合わせのリーフミックス、同サラダ・ディ・リゾ、湯田ヨーグルト(マンゴー・ブルーベリーのシロップ煮)、フランスパンスライス、ミルク、コーヒー、コーヒーポット、高麗人参ジュース。サラダ・ディ・リゾはイタリアのお米のサラダで、イタリア時代の思い出の味。冷やご飯にオリーブ油とワインビネガーで味付けし、ビーンズミックスやピクルスミックス、サラミ、モッツァレラチーズ、マッシュルーム、パプリカ、黒オリーブなどを混ぜ合わせたもの。ヨーグルトは岩手の湯田牛乳公社のものを愛食。ブルーベリーのシロップ煮は自家製だ。
バターとゴルゴンゾーラ・ドルチェを1対1の割合で混ぜ、弱火でバターを溶かしてパスタにかける。簡単に作れることから、絹谷家では “男のパスタ” と呼んでいる。
5年ほど前、広島・鞆の浦を旅した時に出会った「保命酒」(900mL(ガラス瓶、化粧箱入り)1731円。入江豊三郎本店/広島県福山市鞆町鞆534 電話:084・982・2013)。夏季は炭酸で割って夏バテ防止に、冬季はお湯割りにすると体が温まる。「味醂代わりに料理に使うと、一段と美味しく仕上がります」と宏美夫人。

朝4時~5時に起床。コーヒーを1杯飲んでひと仕事。「アトリエに入ることもあれば、原稿を書くことも。その後、朝食は9時頃。夏場は冷やしておいたサラダ・ディ・リゾを欠かしません」と絹谷幸二さん・宏美さん夫妻。
絹谷画伯は料理も得意だ。「絵と料理は似ていて、どちらも調合次第で味が決まる。私はパスタも作るし、蕎麦も打ちますよ」と、厨房でパスタをアルデンテに茹でる絹谷さん。

鮮烈な色彩に、生命のエネルギーが溢れている。日本を代表する洋画家・絹谷幸二さんは、奈良・猿沢の池の畔に生まれ育った。

〈青丹よし寧楽の京師は咲く花の 薫ふがごとく今盛りなり〉

「『万葉集』にある、色彩あふれる古都・奈良が私の原風景です。往時は寺も社も華やかに彩られていたことでしょう」

小・中学校時代から絵を描き、奈良高校卒業後は東京藝術大学絵画科に進み、小磯良平教室(油彩画)で学ぶ。そして、大学院進学時に選んだのが “壁画” であった。

「スペインのアルタミラやインドのアジャンタでは、人類発祥の頃から洞窟などに絵は描かれ続けてきたが、いつの頃からか、ミケランジェロやジョットが教会に描いた古典壁画(アフレスコ)は廃れてしまった。私が誰も描かなくなったアフレスコに惹かれたのは、“絵を描く” ということの真実に触れたかったからです」

アフレスコとは一般的にフレスコ画と呼ばれ、生乾きの漆喰(しっくい)壁に絵を描き込み、乾燥に向かう自然のリズムと呼応しながら創作する超絶技巧だ。1971年、アフレスコを学ぶためにイタリアに留学。ヴェネツィア・アカデミアでアフレスコ古典画法や現代アフレスコの研究に取り組み、これらを体得。

帰国後、画家の登竜門とされる安井賞を歴代最年少で受賞。アフレスコによる独自の画風を確立し、長野五輪ポスターの原画、公共建築物の壁画や天井画を数多く制作し、昨年、文化勲章を受章した。

1973年1月、イタリア・ヴェネツィアの老舗カヴァリーノ画廊で2度目の個展を開いた30歳の頃。アフレスコをはがしてカンバスに移す “ストラッポ” の技法を宏美夫人が習得し手助けしてくれた。模写と創作画あわせて40点余りを展示。
最新作『黒谷光明寺文殊菩薩降臨』。フレスコ画ではなく、フレスコ・セッコで描いたもの。これは乾燥した下地に描画する技法だ。近年は仏や神話がモチーフの作品が多い。

母の「朝は “テキ” を食べろ」

ひたすらに絵を描き続けてきた画伯の健康の源は、朝食である。

「小学生の頃に教室で “朝食は金、昼食は銀、夕食は銅” と発表したことがある。その言葉通りに、私は朝食が一番旨い。朝は舌も新鮮だし、幸福感に満たされます」

その朝食に、週2~3回は “テキ” が登場する。“テキ” とはビフテキのことで、関西ではこう呼ぶという。

「102歳で逝った母も90代まで “テキ” を食べていた。体が弱かった私に朝、“テキ” を食べろというのが、母の助言でした」

年を重ねると人は枯淡の境地に向かいがちだが、80代を目前にして、ますますエネルギッシュだ。

未来に向けて、芸術という種をまいておきたい

2007年から文化庁主催の「子供 夢・アート・アカデミー」に参加し、全国の小・中学校を回っている。上は2011年の東日本大震災後の9月、宮城県石巻市立山下中学校での出前授業。

絹谷さんは今も、全国の小・中学校で絵を教える「子供 夢・アート・アカデミー」活動で、年間15校ぐらいは訪れる。

「私の授業では、絵の具はそのまま使っては駄目だよ、と伝える。料理と一緒で甘いお汁粉に塩を入れるように、隠し味を入れてみようと。すると同じ赤でも百人百色の “赤” ができる。色の混ぜ方ひとつで、自分だけの絵が描ける楽しさを体験してほしいのです」

2008年には、“絹谷幸二賞” も創設した。この賞は日本画、洋画を問わず、35歳以下の画家が対象で、1997年を最後に終了した安井賞の代わりになればよいとの思いからだ。

「私が31歳で安井賞を受賞したのは、将来への期待と不安が入り交じった時期でした。それだけに、駆け出しの画家を応援したい気持ちから始めたのです」

今年から「絹谷幸二 天空美術館キッズ絵画コンクール」も始まった。これは多くの子どもたちに創造の歓びや楽しみを体感してもらう試み。それもこれも未来に向けて、芸術という種をまいておきたいと思うからである。

2016年開館の大阪・梅田「絹谷幸二 天空美術館」で、「第1回絹谷幸二 天空美術館キッズ絵画コンクール」の審査をする。後進の育成にも力を注いでいる。
自宅2階のアトリエで。左は『愛の結晶』、右は『憤怒不動明王』。「今の日本人はエネルギーが足りない。絵の力で元気になってもらいたい」。来年1月11日から東京の「日動画廊」で『富岳三十六景』展を開く予定だ。
著書『絹谷幸二自伝』(2016年刊)。日本を代表する洋画家が、これまでの73年の歩みを振り返る。古都・奈良で生まれ育ち、東京藝大卒業後、イタリアでアフレスコ技法を体得。生命力と躍動感みなぎる唯一無二の画風に結実するまで、また後進の育成などを語る。

※この記事は『サライ』本誌2022年10月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

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