文/印南敦史
『医師が教える薬のトリセツ──ドクターハッシーのわかりやすい健康学』(橋本将吉 著、自由国民社)の著者の名を見て、ピンときた方も多いのではないだろうか。
現役の内科・総合診療医である一方、“ドクターハッシー”としてYouTubeでも活躍している人物だからだ。病気や症状の原因や治療法、健康法やダイエット法などの情報を発信しているが、それは過去の経験を通じ、健康リテラシーの底上げの重要性を痛感したからなのだという。
そんな著者は本書において、薬についての本的な原則から新常識までを解説している。具体的には、読むことで次の3つがわかるようになるそうだ。
薬の新常識とは
1:そもそも薬は人を治す「天使」でもあり、また人を傷つけてしまうこともある「悪魔」でもあるということ
2:結論として、薬は「切り札」なのであり、使う時は可能な限り「最後の手段」の方が良いということ
3:可能な限り薬に頼らずに、健康的な生活をおくる方法
(本書「はじめに」より)
知人が新しい薬を飲み始めて効果を感じているとしたら、自分も試してみたいと思うかもしれない。いま飲んでいる薬に効果を感じず、「より自分に合ったものを見つけたい」と感じることもあるだろう。しかし、できることなら薬に依存せず、健康的に過ごすのがいいということだ。
しかも医学や薬に関する“常識”は、日々アップデートされているものでもある。したがって本書を通じ、“新常識”を頭に入れておくことも大切なのかもしれない。
風邪に風邪薬は使わないほうがいい?
とはいえ、その“新常識”とはどのようなものなのだろうか? その一例として、第2章「最近わかった薬の『意外な』新常識」のなかから、「風邪に風邪薬は使わないほうがいい?」というトピックをご紹介したい。
季節の変わり目など風邪になりやすい時期になると、テレビでは風邪薬のCMが流れる。症状に合わせた名前がついていたり、「この症状にはこれ!」というようにピンポイントで症状が表現されていたりすると、「効くかもしれない」という気分になってしまったとしても不思議はない。あるいは、「風邪っぽいな」と感じた時点で病院に風邪薬をもらいに行ったりすることもあるかもしれない。
ところが最近では、意味があると感じて風邪薬を処方している医師は多くないのだという。そこで重要な意味を持ってくるのが風邪薬の新常識。まずは、そのメリットとデメリットを確認しておく必要があるようだ。
まず、風邪薬を飲むメリットから考えてみましょう。
風邪薬は、処方薬であっても市販薬であっても、多くの場合「PL」と呼ばれる、非ピリン系の「総合感冒薬」が使われています。総合感冒薬と呼ばれる理由は「鼻水を止める成分」と「のどの痛みを抑える成分」と「咳止めの成分」が混ざっているからです。(本書99〜100ページより)
これらの症状を抑えることができたり、仕事や学校を休まずに済むというようなメリットがあると考えられるわけだ。では、デメリットとしてどのようなことがあるのだろうか?
薬には様々な副作用があります。例えば、総合感冒薬に含まれる解熱剤には、多くの場合「胃がムカムカする」などの副作用があり、酷い場合には「胃炎」や「胃潰瘍」につながってしまいます。(本書100ページより)
風邪を早く治すために食欲をつけ、しっかり直るためのエネルギーを手に入れたいというときに、胃がムカムカして食欲がなくなるのでは本末転倒だ。
また総合感冒薬に含まれる抗ヒスタミン成分(鼻水を止める薬)の副作用も見逃せない。抗ヒスタミン成分は「ヒスタミン」という物質を抑えて鼻水の分泌量を減らす効果があるが、「脳の活動(覚醒)」にも大きく関係する物質なので「眠気」を引き起こしてしまうというのだ。眠気は作業効率にも影響するだけに、これは見逃せないところだ。
さらに、どんな薬にも存在する「アレルギー」の問題もある。人には免疫という「外部から入ってきた異物を除去する」仕組みがあるので、それが薬に対して効果を発揮した場合、風邪の症状に加えてアレルギー症状までもが現れることになるわけだ。
いずれにしても薬に頼り切るのではなく、ゆっくり休んで、しっかり寝て、エネルギーを回復したほうがいいのかもしれない。
ただし当然のことながら、医者の力を借りるべきだという場合もあるだろう。
もし安静にしていても、長引いたり症状が明らかにひどくなったりしている場合には、風邪ではない可能性や進行している可能性があります。その場合には病院を受診し「風邪薬は飲んでいませんが、治りが悪いので診察をお願いします」という流れが望ましいと思います。(本書102〜103ページより)
つまり著者は、「症状が強い場合でも受診を控えるように」と主張しているわけではない。症状が重いと感じた場合に我慢しすぎず受診すべきであるのは当然の話。しかし、軽い風邪症状なのに、安易に風邪薬に頼らないようにすることもまた重要だということなのだ。
『医師が教える薬のトリセツ──ドクターハッシーのわかりやすい健康学』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。