文/鈴木拓也
1日に何種類もの薬を服用する、高齢者の多剤服用が社会問題化している。
75歳以上に限ると、約4割が1日に5種類以上の薬を服用しており、組み合わせによる予期しない副作用などが指摘されている。
■「薬を使わない薬剤師」が警告する多剤服用の問題
以前から、この問題に警鐘を鳴らしてきたのは、宇多川久美子さんだ。かつては薬剤師として総合病院に勤務していた宇多川さんだが、「薬で病気は治らない」現実を知り、今は「薬を使わない薬剤師」として啓発活動を行っている。
宇多川さんは、著書『薬は減らせる!』(青春出版社)の中で、多剤服用の問題点として副作用のほかに、「依存、耐性ができてしまう」、「腸内環境が悪化する」などを挙げ、「その薬は本当に必要なのか」と考えることを促す。
特に、高血圧や糖尿病のような慢性病や生活習慣病の薬は、基本的には症状を抑えるのが目的で、病自体を治すものとは言い難い。
そうかといって、単に服用を止めてしまえば、症状に悩まされることになる。
もちろん、宇多川さんも、安易な断薬・減薬を説いているわけではない。
■薬を減らすには「積立貯筋」から
宇多川さんが、第一歩としてすすめるのが、生活習慣の改善。なかでも重点ポイントの1つとして、コツコツと筋肉を鍛えていく「積立貯筋」を推す。
身体組織の中でも筋肉だけは、何歳からでも鍛えて強化することができる。「貯筋」ができれば、免疫力や骨密度が向上するなど、身体全体のコンディションが改善され、ひいては生活習慣病の改善につながり、薬を減らすことができるという理屈だ。
これはなにも、ジムに毎日通って厳しい筋トレに励め、という話ではない。宇多川さんが考案した、「ベジタサイズ」という名の運動をするのでよいという。
■「ベジタサイズ」で薬いらずの身体へ
「ベジタサイズ」の「ベジ」は、ベジタブル(野菜)から来ている。これは、大地に根を張る野菜をイメージして行うエクササイズであることから、ついたネーミングだ。
このエクササイズは、器具も要らず、つらさもない。歩行が難しくなってきた90歳と88歳の夫婦が、腰が伸びしっかりと歩けるようになるなど、効果も折り紙つき。
「ベジタサイズ」は、「芽生えエクササイズ」、「豆の木エクササイズ」、「麦ふみエクササイズ」の全3ステップの運動にプラスして、正しい姿勢で行うウォーキングからなる。
『薬は減らせる!』には、各エクササイズが説明されているので、最初の「芽生えエクササイズ」を紹介しよう。
1. 脚をそろえてまっすぐ立つ。
2. 合掌するように手を軽く胸の前で合わせて種をつくる。腰をまっすぐ下ろし、中腰になる(これから芽生える種を埋め、エネルギーをためていく)。
3. 脚をすっと伸ばして立ち上がる。手を合わせたまま、頭上のできるだけ高い位置を目指して上げていく(土の中からまっすぐに芽が伸びていく)。
4. 腕を45度くらいにパッと開く。このとき、お尻をキュッと締める(双葉が開き大地に根っこを張るイメージ)。
1~4を3回ほど繰り返すが、括弧に書かれているのは、やりながら心の中でイメージする内容となる。イメージは、このエクササイズの目的である「正しい姿勢で立つ」のに役立つという。
まず、種を土のなかに埋めて、やがて芽が出て、お日さまに向かってまっすぐ伸びる、ということをイメージで伝えます。すると、胸を張ったり、腰を反らせたりすることなく、自分自身でまっすぐ上に伸びようとします。実際は背骨を支えている仙骨がすべった状態から上を向き、背骨の近くにあるインナーマッスルである脊柱起立筋が上に引き上がっていくのですが、それがイメージ力によって無意識にできてしまうのです。(本書127pより)
その後のステップで、肩甲骨をほぐし、転ばない脚づくりをし、正しい姿勢で歩くためのエクササイズが続くが、どれもシンプルで容易にマスターできる。
「ベジタサイズ」を習慣づければ「貯筋」となり、生活習慣病が改善され、薬を減らすことが期待できる。宇多川さんは、何かしら効果が見えてくるまでの目安は1か月と述べている。薬の飲みすぎを気にされている方は、本書を読んで実践してみるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『薬は減らせる!』
http://www.seishun.co.jp/book/21200/
(宇多川久美子著、本体960円+税、青春出版社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。