新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
流動性知性の重要性
ある製薬会社では、週に1回、出社時の体重計測が従業員に義務づけられています。そして、そこからはじき出されたBMI値が、社内で記録・管理されるのだそうです。
健康に関わるビジネスを展開する企業として、太っていないかどうかは、その従業員を評価する要素として欠かせないものなのでしょう。
もっとも、企業に管理されるまでもなく、誰にとっても太らないことは重要です。肥満は、体の健康はもちろんのこと、脳の健康も害します。
実は、細胞の代謝の上で筋肉と心臓と脳は繋がっていて、その仕組みによって私たちはエネルギー切れを起こさず動けるわけです。
だから、筋肉量を維持することは大事で、それができないと心臓も弱り、脳も働かなくなっていきます。
スイーツ好きは男性機能の低下にも要注意【世界最新の医療データが示す最強の食事術】8(https://serai.jp/health/1011466)で、筋肉と脂肪はもとの細胞が同じだという話をしました。つまり、脂肪を増やしてしまう人は筋肉を維持できない人であり、心臓にも脳にも危険信号が灯るのです。「太れば太るほど、脳が小さくなる」と私のアメリカ人の恩師は言っていましたが、少々表現が過激なものの、まんざら嘘ではないのかも知れません。
とくに、流動性知性(fluid intelligence)への影響が大きいことが、イギリスの研究でわかっています。
流動性知性とは、臨機応変に事態に対応できる判断能力のようなものを指します。
流動性知性と相対的なのが結晶性知性(crystallized intelligence)で、結晶という言葉の通り動かずに存在する知性、いわばテストやクイズでいい点数を取れる能力です。
以前の日本社会では、結晶性知性の高い「物知り博士」が評価されました。しかし、これからの時代、結晶性知性はあまり必要とされません。
なぜなら、知らないことはインターネットで調べればいいわけですし、AI(人工知能)がなんでも教えてくれるでしょう。
一方で、流動性知性は非常に重要視されるでしょう。未知のウイルスはこれからも出てくるし、地震や台風といった自然災害も増えると考えられます。そのときに、どう動くべきかを素早く判断できなければ生き残れません。
もちろん、ビジネス環境も激変するでしょうから、そこで勝ち抜いていくためにも流動性知性を低下させるわけにはいきません。
メタボリックドミノが行き着く先は?
さらに、脂肪(とくに男性に多い内臓脂肪)が増えると、血圧が上がったり、血糖値が高くなったり、動脈硬化が進んだりと、体にとってネガティブなことが将棋倒しのようにどんどん起こります。これを「メタボリックドミノ」と言います。
食事や生活習慣の乱れから始まるメタボリックドミノは、最後は致命的な心臓疾患や脳疾患、腎臓病などに行き着きます(下図参照)。
つまり、内臓脂肪が増えると、自らその個体が死ぬような方向に働くのです。
生物学的に見ても、一個体が他の生物の食べ物をガツガツ食べて脂肪を溜め込んでいるようでは、その生物種全体にとって「益」のあることではないので、そうした個体は自然消滅するような仕組みがあるのかも知れません。
おそらく、それと同じことが個人の体の中でも起きていて、いわば「自爆システム」が働くのではないかと私は考えています。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。