新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。

殺菌や滅菌のやり過ぎは逆効果!

最近は「腸活」という言葉も広まってきましたが、腸内環境が健康に与える影響は大きいものです。私たちの腸内には、だいたい1〜2キログラムもの腸内細菌がいると言われています。しかも、量だけでなく驚くのはその種類の豊富さです。健康な日本人の平均は、約1000種(100兆個)にも及びます。

そして、私たち人間が細胞に有している遺伝子の、100倍もの遺伝子を腸内細菌は持っていることがわかっています。

となると、私たち人間は、自分の意思というよりも腸内細菌に動かされていると考えていいくらいです。

そのときに、いろいろな腸内細菌がバランス良く生息していれば、欲する食べ物もバランス良くなるでしょう。

では、偏っていたらどうでしょうか。偏った食事へと突き動かされていくことでしょう。

常に「甘い物が食べたい」という欲求に突き動かされている状態「シュガークレーバー」も、腸内細菌の偏りが影響しているのかも知れません。

腸内細菌の世界も人間社会と同じで、いろいろなタイプが必要なのです。

ところが、ある研究では人々が保有する腸内細菌の種類がどんどん減ってきていることがわかっています。

仮に母親に1000種類の腸内細菌がいるとすると、その子どもは100種類に、孫になると10種類しかいないというくらいの劇的変化が起きていると言われます。

それはなぜか。その研究者らによれば、幼少時に抗生物質を多用することが1つの原因とされています。

一般的に腸内細菌が減ってしまう最大の原因は、「清潔すぎる」ことにあります。清潔はいいことですが、それはイコール「殺菌・滅菌」を指すのではないはずです。

昔は、今のように食べ物を菌から遠ざける環境ではありませんでした。

肉も魚も野菜もパックされておらず店頭で包んでくれましたし、味噌などの調味料も量り売りが主でした。だから、いい意味で私たちは、知らず知らずのうちにいろいろな雑菌も取り入れ、結果的に腸内細菌の種類も豊富だったのです。

ところが、今はさまざまな加工によって、いい細菌まで殺され、害のある添加物ばかり口に入れています。

土壌学の専門家である横山和成氏によると、わずか1グラムの土の中に1兆個もの細菌がいるそうです。そして、それが減ってくると、土の植物を育てる能力も落ちるそうです。

横山氏は、「土は私たちの腸と似ている」と述べています。

いい土壌にはたくさんの種類の細菌がいて、その土壌から栄養をもらった野菜はよく育ちます。同様に、私たち人間は小腸から栄養を吸収しますが、腸内細菌の種類が豊富なら、私たちは健康でいられるのです。

もう1つ、先ほどもふれたように現代人が普段から抗生物質に頼り過ぎていることも、腸内細菌に悪い影響を与えています(下図参照)。

抗生物質は菌を殺しますから、当然のことながら腸内細菌の種類も減らします。また、抗生物質の濫用で耐性菌が増えているのも問題で、ようやく、厚生労働省が、風邪の患者などに安易に抗生物質を処方しないように指導し始めたところです。

一方で、世界全体に目を向ければ、抗生物質の6~7割は人間ではなく畜産に消費されています。牛や豚がまだ子どもの頃に抗生物質を与えると大きくなるために、多くの畜産現場で使われているのです。

そうやって育てられた動物の肉を多食することで、私たちの体に悪影響が出ないとは考えられません。

体にいい細菌とは「共存する道」を選ぶ

日本人は清潔好きですから、そこには大きなニーズがありますね。テレビCMを見ていると、トイレはもちろん、ソファもカーペットも食器を洗うスポンジもばい菌だらけで、放置しておくと大変なことになりそうです。

さらに、身だしなみを気にする若い女性やビジネスパーソンは匂いについて敏感です。「もしかしたら、あなたは臭いかも」と脅かされたら、不安な気持ちになるでしょう。

そして、みんなやたらと殺菌スプレーや消臭スプレーを振りかけているわけです。こうした状態について、ちょっと冷静に考えてみる必要がありそうです。

もちろん、新型コロナのようなウイルスは、できるだけ退治しなくてはなりません。しかしながら、多くの細菌はいい作用もしています。いろいろな種類が混在することで一定のバランスを成立させており、それを崩してはいけないのです。

たとえば、胃にピロリ菌がいたら、たいていの人が慌てて除菌します。ピロリ菌は胃がんの原因となる悪者と刷り込まれているからです。

しかし、ピロリ菌は悪さばかりしているのではありません。ピロリ菌がいることで、空腹時に胃酸が増え過ぎないという利点もあります。

これを除菌してしまうと強い胃酸に晒され、逆流性食道炎を起こしやすくなります。そして、結果的に食道がんにかかりやすくなるのです。胃がんと食道がんでは、治療の大変さも予後もまったく違います。私なら、ピロリ菌と共存する道を選びます。

ホルミシス効果で免疫力を高めよう

鳥取県の三朝温泉周辺は、長寿者が多いことで知られています。ラドン温泉である三朝の湯の「ホルミシス効果」ではないかと思われます。

ホルミシス効果とは、高濃度あるいは大量だと有害な物質を、微量用いることで有益な効果をもたらすというものです。

がんの治療効果で有名な秋田県の玉川温泉も、やはり放射性のラジウム温泉です。ラジウム温泉では、放射線が微量、放出されています。

それを体内に取り込むことで免疫力が高まるのです。

このように、私たちの免疫力は、ただ甘やかされるのではなく、ちょっと刺激を与えられたほうが「はっ」と目覚め、いい働きをします。
食品にもホルミシス効果を持つものがあります。

ピリッとした刺激を感じる香辛料やわさび、唐辛子、生姜、にんにくなどがその代表です。これらは、大量に摂れば胃腸を荒らします。

しかし、少量摂れば、その刺激で食事自体が美味しくなるだけでなく、消化も助けられ、免疫力もアップします。

ホルミシス効果を享受する上でも、オールオアナッシング思考はダメ。

刺激のあるスパイス類も、最適な量を、最適なタイミングで摂る知性を磨きましょう。

満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。

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