酸味のあるライ麦パンと野菜たっぷりの具だくさんスープが、シニア料理家の健康の源。いずれも若き日の思い出の味だ。

【小林まさるさんの定番・朝めし自慢】

前列右から時計回りに、ハム、目玉焼き(まさる漬け)、トマトと玉葱の薄切り、スライスチーズ、コンビーフとレタスのスープ(しめじ・玉葱・粒コーン缶)、ブルーベリーとヨーグルト、ライ麦パン(バター)。ハムやトマトと玉葱、スライスチーズはライ麦パンにのせて、オープンサンドイッチにして食す。まさる漬けは刻んで、目玉焼きの調味料としても美味。

「齢をとって思うのは睡眠の大切さ。夜は10時頃に寝て、朝6時頃に起床。睡眠は8時間を守っている。朝食は7時半から8時頃だね」と、嫁のまさみさんと食卓に着く小林まさるさん。

コンビーフとレタスのスープに代わって、押し麦のスープが登場することもある。こちらもキャベツ、玉葱、人参と野菜たっぷり。穀物スープはロシア風で、押し麦などの穀物を入れることでとろみがつき、食べやすい。
18歳頃から作り続けている「まさる漬け」は、青唐辛子の醤油漬け。今は国産ホタテのコクも加えて、やみつきになる旨辛さだ。酒肴やご飯の友に、刻んで薬味や調味料に。「暮らしの仲間」オンラインショップで販売(https://try-suru.shop-pro.jp 問い合わせ:TRY-SURU 電話:03・6885・3601)。

「俺が手伝おうか?」

このひと言が後半生を決めた。長男・史典さんの嫁・まさみさんがまだ駆け出しの料理研究家の頃。ひとりでは手が回らない様子を見るに見かねた、親心から出たひと言だった。

「まさみちゃんが朝の5時から夜中まで、ひとりで一生懸命やっているんだもの。俺は家で遊んでいるんだし、ひとつ洗い物でも手伝ってやっかなって思ったのさ」

病弱だった妻に代わって、結婚当初から家事や炊事をこなしてきた。ふたりの子供たちの弁当も作った。料理は苦にならない。一方、まさみさんは舅の手際の良さに内心、“これは使える!”(笑)と直感。こうして70歳の料理アシスタントが誕生した。この嫁舅コンビは、テレビや雑誌の現場スタッフらの間で評判を呼ぶ。

気がつけば、二人三脚で17年。ふたり一緒にテレビの料理番組に出演し、共著で料理本も出した。さらにまさるさんは、78歳にして料理家として『まさるのつまみ』なる自著を出版するに至った。

著書も多数。右から『人生は、棚からぼたもち!』は、シニア料理家の痛快人生レシピ。『小林まさるのカンタン!ごはん』は、家にある材料でササッと作れて酒肴にもなるレシピを紹介。『ホットクックのからだが喜ぶレシピ』は、まさみさんとの共著。シニア世帯や単身世帯に人気の最新自動調理鍋、ホットクックを自在に使いこなす技を伝授。

樺太やドイツの思い出の味

昭和8年、日本統治領の樺太で生まれた。13歳で終戦を迎えたが、父親の仕事の都合でロシア(当時ソ連)領となった樺太で過ごす。

「その頃から、おふくろが鱈でも鮭でも上手に捌くのを見て、魚の下ろし方は自然に覚えたね」

北海道に引き揚げたのは、15歳の時。その後、三井鉱山の鉱業学校を卒業し、20歳で美唄にある炭鉱に就職した。三井鉱山時代にはドイツ赴任も経験。朝食には、この若き日の味も生かされている。

「うちの朝めしは俺かまさみちゃんか、時間のあるほうが作るんだ。俺が担当する時は、ライ麦パンと野菜たっぷりの具だくさんスープを欠かさないね」

ライ麦パンは、ロシア領となった樺太時代やドイツ赴任時代の思い出の味である。

「ロシア兵がくれたライ麦パンは、本当に酸っぱかった。ドイツのパンはロシアほど酸味が効いてないけど、それでも酸っぱい。けど、噛かめば噛むほど旨味が出るんだ」

コンビーフのスープも、ドイツ時代に覚えた味。また、押し麦などを入れた穀物スープはロシア風で、少年期に馴染んだ味だという。

27歳から3年間、勤めていた三井鉱山の海外研修でドイツに滞在。写真はドルトムント近郊のホームステイ先の家族らと。この3年間でライ麦パンやコンビーフのスープ、ビールの旨さに目覚めた。
定年後、62歳で木彫りの楽しさに夢中になった。友達からもらった丸太で、虎を彫ったのが始まり。これが玄人はだしの出来映えで、今もノミと小刀で、仏像や鷲を彫っている。

料理は頭の体操、 定年後の男子は厨房に入るべし

アシスタントから始まった料理の仕事だが、今では料理本を出したり、テレビに料理家として出演するまでに。「料理は最高のボケ防止。料理に携わっていることが、長生きの秘訣」と、酒肴を作る小林まさるさん。トレードマークのバンダナは、100枚以上あるという。

78歳で料理本を出版し、シニア料理家としてデビューした。これが元気の秘訣だという。

「俺に直接仕事の依頼がくるようになって、毎日がワクワク、ドキドキの連続。老いてる場合じゃないんだよ。それに、料理というのは頭の体操だ。俺は冷蔵庫を開けて、あるもので料理を考えることが多い。アイディアが決まったら、次は段取りを巡らす。これも頭のトレーニングになるね」

まさるの酒肴(1) 焼きエリンギの味噌漬け
エリンギ3本は縦半分に切り、グリルで焦がさないように両面をこんがり焼く。味噌小さじ2、しょうが汁小さじ1/4、ツナ缶汁ごと小さじ2を混ぜ、焼いたエリンギに塗る。

毎朝、食材を買いに行くのもまさるさんの仕事だ。スーパーの食材を見ているだけで、料理のアイディアがどんどん浮かぶ。これも勉強だ。買った食材は大きめのリュックに入れて歩く。1日の歩数は7000~1万2000歩。けっこうな運動量だ。加えて、毎日の風呂体操も欠かさない。

「ラジオ体操を自分流にアレンジしたものだけど、この風呂ストレッチは50年以上続いている」

まさるの酒肴(2) はんぺんの変わりつけ焼き
醤油小さじ1、玉葱すりおろし小さじ1、オイスターソース小さじ1/2、豆板醤小さじ1/4を混ぜてたれを作る。はんぺん大1枚と半分に切ったピーマン2個の両面にたれを塗り、弱火のグリルで両面をこんがりと焼く。

今、計画していることがある。定年後の男子に、酒のつまみ程度の料理を教える教室を開くことだ。最後は、それを“あて”に皆で一杯やる。“まさるのつまみ教室”が、87歳の夢である。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆

※この記事は『サライ』本誌2021年2月号より転載しました。

 

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