仏教寺院で僧侶たちが日常口にする食事が「精進料理」。とくに曹洞宗では、開祖・道元の教えにしたがい、食ないし料理も修行の一環として重要視されてきた。
静岡にある観音寺の住職、小金山泰玄(こがねやまたいげん)和尚は、同じく静岡にある曹洞宗の寺院「可睡斎」の典座(てんぞ、禅宗寺院で修行僧の食事、仏や祖師への供膳)を担当する“典座和尚”であり、精進料理のスペシャリストである。
観音寺内の精進料理店「水月庵」で精進料理教室を開いてもいる小金山和尚は、おいしくてわかりやすい精進料理の指導にたいへん定評があるお方だ。
今回は、そんな小金山和尚が伝授する「精進料理の3つの心得」を、同じく禅僧である枡野俊明さんの著書『禅と食』(小学館文庫)よりご紹介しよう。
■1:だしは手元にあるもので
「精進料理では、基本的に昆布だしか干ししいたけの戻し汁でだし汁をつくります。私は主に昆布だしを使いますが、昆布の産地にこだわりはなく、いつも手元にあるものでだしをつくります。鍋に水と昆布を入れ、沸騰する直前に取り出すだけで、特別なことをするわけではありません」
この話を聞くだけでも、「精進料理は難しそう」という印象は払拭できるのではないだろうか。
■2:塩と水だけはこだわる
「とくに水と塩だけは、おいしいものを使ってほしいです。水については、お寺では井戸の水を使っていますが、一般の方は国内の軟水のミネラルウォーターを使うとよいでしょう。塩についても、できるかぎり天然のもので、お好みの味のものを使ってください」
精進料理はシンプルだからこそ、素材にはこだわるべし、というのが基本であるようだ。
■3:野菜の皮を無駄にしない
「野菜の皮や野菜クズも、無駄にしないようにしましょう。たとえば大根やにんじんは、皮をむいてきんぴらにします。ぬか漬けにしても大変おいしくいただけます。どうしても皮を捨てなければならないときは、できるかぎり薄くむきましょう。」
野菜の隅々まで有り難くいただくという心得こそが、精進料理には大切だということである。
以上、今回は精進料理のスペシャリスト、典座和尚の小金山泰玄和尚が説く、精進料理の3つの心得を紹介したが、いかがだろうか。
この心得が収録されている『禅と食』(枡野俊明著、小学館文庫)には、曹洞宗徳雄山建功寺住職である枡野俊明氏が、禅的な観点から「食」についての考え方を記した一冊。「お腹いっぱい食べない」「週に一度は野菜断食を」「お粥を取り入れよう」など、禅的シンプル食生活を送るための数々の知恵が披露されている。
小金山和尚と著者による「“野菜心”が読めるようになるまで」という対談も、大変興味深い内容なので、ご関心ある向きは一読をおすすめしたい。
文/印南敦史
【参考図書】
『禅と食 「生きる」を整える』(小学館文庫)
著/枡野俊明
本体580円+税
食事をつくること、食べること――一回一回の食事を丁寧に大切にすることは、一瞬一瞬の人生を心をつくして生きることに通じます。禅的シンプル生活のはじめの一歩は「食事」から始まります。
料理をつくる心構えから、食事をする心と所作、シンプルな食習慣の秘訣まで、数々のベストセラーを輩出する枡野俊明氏の教えが一冊に。簡素で清々しく、美しい生き方を提案します。
精進料理のレシピつきで、まさに今日から禅的食生活を実践できます。