【料理をめぐる言葉の御馳走~第2回】小野二郎②
汚れたらすぐに拭く。時間がたてば洗わなければならない。
一日たってしまえば磨かなきゃならない。
飲食店にとってなにより大切なのが「清潔であること」だが、そのお手本が「すきやばし次郎」ではなかろうか。わたしの知る限り、その清潔さは日本一だと思う。いや、世界一かもしれない。
まず、のれんをくぐって店に入っても、魚の臭いはおろか、酢の匂いも一切しない。そのにおいを立たせぬために、夜、仕事が終わると、お勝手とカウンター内の調理場にお湯をかけまわして洗う。この清掃を徹底してやらない限り、店は仕舞いにならない。
そればかりか、翌朝の8時には客席の椅子がすべて店の外に運び出され、もう一度床を掃除する。窓のガラスはいつも光っていて、壁だろうが柱だろうが、どこを触っても、塵も埃もひとつもない。土曜日になるとカウンターを歯磨き粉で時間をかけて磨いている。まるで、毎日大掃除をしているような感じである。保健所の人が検査にやってくると、土足で仕事をしている勝手口で靴を脱いで入ろうとするほどだという。
店には二郎さんが「人間国宝」と呼ぶ、掃除と片付けのお手伝いさんがいるが、若い職人さんもそれに見習うように、気がつけば仕事をしながら掃除を欠かさない。この姿を見ていると、料理は調理半分、掃除半分ではなかろうかとも思えてくる。
「掃除って、しすぎることってないんですもの。掃除の仕方を見るだけでも、料理に対する心がけが調理場にあらわれますよね。汚れたらすぐに洗えばいいんです。時間がたってしまうと洗わなければならない。汚れたまま一日たってしまえば磨かなきゃならないんです。いつも、若い連中に言ってることですが……。掃除がきちんと出来なきゃ、料理なんてできませんよ。それくらい大事なことです」